目標16「平和と公正をすべての人に」は、CSVの対象とするには難しい目標だと考えられている。また、昨今の地政学リスクの高まりの中、平和を守るには武器が必要だという考えも広がっており、武器メーカーをESG投資の対象にするという議論もある。しかし、すべての製品・サービスには、何らかのプラスの側面がある。武器をESG投資の対象にするようであれば、すべての製品・サービスがESG投資の対象になりえるだろう。
目標16に戻ると、暴力撲滅、司法アクセス、組織犯罪根絶、汚職・贈収賄減少、公共機関の透明性、身分証明、情報への公共アクセスなどのターゲットがある中で、多くの企業が取り組むべきこととしては、「汚職・贈賄の減少」がある。汚職・贈賄は、先進国でも問題となる場合もあるが、特に途上国で問題となりがちだ。汚職・贈賄が蔓延しているような国では、ある程度柔軟な対応をしなければビジネスが円滑に展開できないと考えている企業やビジネスパーソンもいるかも知れない。しかし、そこは考えを改めるべきだ。
インドの大手IT企業インフォシスは、「尊敬される企業になる」ことを企業理念に掲げ、「良心に背くことは行わない」などの原則を策定し、社員に徹底している。インフォシスでは、製品の輸入にあたって税関から賄賂を要求された場合でも、賄賂を支払うことはせず、代わりに高い関税を支払うといった行動を取ることが 社員に浸透している。こうした姿勢を徹底することにより、腐敗した役人もインフォシスの社員には賄賂を要求しなくなり、顧客からの信頼を高め大規模なプロジェクトを任せられるようになり、優秀な人材を獲得できるようになっている。目標16に関するCSVを実践しているといえるだろう。
テクノロジーにより汚職・贈賄を減らす動きもある。途上国では、土地の売買に賄賂が必要といった腐敗が横行していることがあり、こうした腐敗は国の健全な発展を阻害することがある。そこで、ブロックチェーン技術を用いた信頼性の高い土地登記により、第3 者が改ざんすることを不可能とし、こうした腐敗を削減する取り組みが進んでいる。
武器あるいは武器に使われる部品などを提供しているわけではなくても、自社のサプライチェーンが戦争や紛争に加担することになる場合がある。良く知られているのが紛争鉱物の問題だ。コンゴ民主共和国などの紛争の絶えない地域で、3TGと言われるすず、タンタル、タグステン、金などの鉱物資源が、武装勢力の重要な資金源となっている。こうした鉱物資源は、電子部品などに広く使われているが、紛争を助長しているとして紛争鉱物と呼ばれる。紛争鉱物は、欧米では法令で対応が求められ、電機業界、自動車業界など電子部品を使用する業界では対応が進んでいるが、紛争鉱物に限らず、自社のサプライチェーンが戦争や紛争に加担していないかには、感度高く対応する必要がある。そのためには、サプライチェーンのトレーサビリティが重要だ。ここでもブロックチェーンなどのテクノロジーの活用が進められている。
テクノロジーの活用は、目標16のその他のターゲット、司法アクセス、身分証明の提供などでも期待が集まる。法律(リーガル)とテクノロジーを組み合わせた、ITによる法律サービスの利便性を向上するリーガルテックという言葉がある。オンラインでの弁護士相談なども含まれるが、日本でもサービスが普及しつつあり、利便性が向上すれば、弁護士のいない地域でも司法アクセスの提供が容易となる。
身分証明に関しては、海外では、中東などの難民などに網膜認証などの生体認証とブロックチェーンを使ったシステムで本人認証を行う電子身分証明書を発行している例がある。こうしたシステムにより、ホームレスなどの身分証明を持たない社会的弱者を広く支援できる可能性がある。
自社およびサプライチェーンにおいて、暴力、犯罪、汚職・贈収賄に加担せず、テクノロジーを用いて、汚職・贈収賄減少、司法アクセス、身分証明に貢献する。目標16に関しては、そうした取り組みを通じてCSVも実現できる。
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