ESG投資、ESG経営が広がっていますが、その背景には、「ESG投資は長期的に見てパフォーマンスが良い」「ESG経営は企業価値向上につながる」などといった考えがあります。こうした考えは、投資銀行やコンサルタントが吹聴している側面もありますが、ESGへの取り組みを戦略的に行うことで、企業価値を向上できるのは、事実でしょう。
ESGへの取り組みを通じた企業価値向上のアプローチには、「環境・社会課題に対応する市場への価値提供」と「非財務資本の強化による競争力向上」があります。
「環境・社会課題に対応する市場への価値提供」は、気候変動対応で求められる可視化、緩和、適応に関する市場、SDGsへの取り組みが生み出す市場などに価値を提供し、売上・利益を上げるものです。市場経済の副作用として生み出される環境・社会課題が深刻化あるいは顕在化し、その対応が求められる中で市場が創出されています。そうした市場を感度高く捉え、先んじて課題を解決する製品・サービスを提供することで、企業価値を向上することができます。
「非財務資本の強化による競争力向上」は、人的資本、知的資本、社会・環境資本など企業活動が持続的に価値を創出するために重要な非財務資本を強化し、長期的な競争力を向上させるものです。最近は、人的資本が注目されていますが、優秀な人材を獲得し、人材の能力を引き出し、多様な人材の能力を掛け合わせて組織として価値を生み出すことで、企業価値は向上します。知的資本についても、将来市場に生かせる優れた技術や特許の獲得は企業価値の向上につながります。社会・環境資本には、ブランドやレピュテーションなども含まれますが、ブランド力の強化による顧客ロイヤリティ、プレミアムの獲得などは、企業価値向上につながります。
このように、ESGへの取り組みを戦略的に行うことで、企業価値は向上します。「ESG経営」というときには、このようにESGを通じて企業価値を向上すること、ESGを通じて設けることが期待されます。PRIで提唱されたもともとのESG投資は、投資家や投資先企業の行動を環境・社会の持続可能性に配慮したものとするという側面が強かったと思いますが、現在は、特にESG経営という場合は、長期的な企業価値を向上するという側面が強くなっています。
一方で、「サステナビリティ経営」という言い方もあります。こちらは特段よりどころもなく、不明瞭な概念ですが、環境・社会のサステナビリティに配慮しつつ、自社のサステナビリティを実現する経営といったニュアンスで捉えられているかと思います。マテリアリティに関して言えば、ESG経営が財務マテリアリティ=シングル・マテリアリティを重視するのに対して、サステナビリティ経営は、ダブル・マテリアリティを重視するものと整理できるでしょう。
環境・社会の持続可能性を重視するサステナビリティ経営は、社会を変える力を持っています。本気で社会を変えようとするサステナビリティ経営のトップランナーは、自らルールメイキングをしかけたり、イノベーションとマーケティングを通じてサステナビリティ市場を創造したりします。Bコープとして、環境・社会への価値創造を株主価値創造より重視する企業もあります。しかし、企業価値との両立がなければ、環境・社会の持続可能性に大きく貢献することは難しいでしょう。
長期的な企業価値創造を重視するESG経営、儲けるESG経営は、今後、多くの企業が推進していくでしょう。一方、環境・社会の持続可能性を重視するサステナビリティ経営がどのように広がるかは、政府や市民/消費者の行動に依存する側面もあります。社会を変えるサステナビリティ経営をどう広げていくか、それが企業のみならず、大げさに言えば、全人類にとっての課題です。
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