企業価値の源泉は、工場や設備などの有形資産から、人材が持つアイデア、ノウハウ、ブランドなどの無形資産にシフトしています。米オーシャン・トモによると、米国主要企業の企業価値に占める無形資産の割合は、1975年の17%から2020には90%に拡大しています。欧州など他地域でも、米国ほどではないですが、企業価値の大部分を無形資産が占めるようになっています。なお、日本は、この潮流に乗り遅れているようで、企業価値に占める無形資産の割合は、32%にとどまっています。
サステナビリティの世界では、旧IIRCが提示した6つの資本という概念が良く使われています。6つの資本とは、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・環境資本、自然資本ですが、このうち知的資本(特許・ノウハウなど)、人的資本(人材が持つ能力・経験・意欲など)、社会・関係資本(ブランド・評判など)が、無形資産に該当するでしょう。
最近は、経済のデジタル化などの潮流の中で、企業価値を生み出す源泉としての人的資本が改めて注目されています。今年、EUで人的資本を含むESGの情報開示ルール(Corporate Sustainability Reporting Directive)が策定される予定、米国でも従業員数のみが義務付けられている人的資本の開示ルールが強化される予定で、退職率、スキル・研修、報酬・福利厚生などの追加が検討されています。日本でも今年人的資本の情報開示に関する指針が示される予定で、多様性、人材教育、ハラスメント防止などを対象とすることが検討されています。
これまでも企業経営においてヒトが重要とは言われてきていますが、変化のスピードが加速し、不確実性が高い時代に、新たな価値を継続的に生み出せるのは、ヒトだということで、これまで以上に人的資本が注目されています。
人的資本が企業価値の源泉になるのは、自社内に限るものではありません。企業価値は、バリューチェーン全体を通じて生み出されるものですから、当然、バリューチェーンの人的資本も重要となります。
サステナビリティの先進企業では、人的資本強化という文脈では捉えていないかも知れませんが、バリューチェーンにおける人材支援をしています。ネスレは、CSVの原点として、原材料農家の育成を進めており、これが高品質原材料の安定調達という、ネスレの企業価値の源泉となっています。新型コロナ禍で、サプライヤー支援を行っている企業は、サプライチェーンの人的資本の毀損を防止していると言えるでしょう。
企業価値を生み出す差別化の源泉として、自社の従業員だけでなく、バリューチェーンの人的資本にも早めに注目すべきかも知れません。
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