国際政治の世界で“ソフトパワー”という言葉が使われます。ソフトパワーとは、「強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力」です。国家について言えば、軍事力や経済力などの対外的な強制力(ハードパワー)によらず、その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を得る力です。
米国の強い政治力の背景には、軍事力、経済力などと並びこのソフトパワーがあります。フランスの元外相は、米国が強力なのは「映画とテレビによって世界の映像文化を支配しているために、他国の人びとの夢と希望に影響を与えているからであり、同じ理由で世界各国の大量の学生が勉学の仕上げをしようと米国に集まっているからだ」と言っています。ハリウッド、ディズニー、ハーバード大学、アップルなどの存在が米国の魅力を高め、世界が米国の考え方を受け入れ、支持する大きな要因になっているのです。
日本にもソフトパワーがあります。ポップカルチャーなどが世界的に受け入れられ、日本の代表的ソフトパワーの一つと見なされています。例えば、イラク戦争のときに、日本がODA供与した給水車に、イラクで大人気のキャプテン翼のイラストを書いておいたため、給水車が襲われることはなかったと言います。ワールドカップなどの世界的イベントで、日本のサポーターが試合後にごみ拾いをしている様子が広く報道されることは、日本人の礼儀正しさを示し、ソフトパワーを強化しています。サステナビリティ関連では、”Mottainai”精神などは、世界的にかなり浸透し日本のソフトパワーを形成しています。最近は、日本人がMottainai精神を失いつつあるようなのが残念です。もっと大事にすべきでしょう。
企業にもソフトパワーは存在します。給与がそれほど高くなくてもそこで働いてみたいと思わせる企業、上司が厳しく管理しなくても社員が自発的に能力を発揮する企業、価格や機能が他社と変わらなくても顧客が製品に喜んでプレミアムを支払ってくれる企業、そうした企業は、ソフトパワーの強い企業と言えるでしょう。
国家の場合は、ソフトパワーは、文化、政治的思想、政策の魅力などによって生み出されますが、企業のソフトパワーは、創業者の魅力、企業理念、企業文化・価値観、感性に訴える製品・サービス、サステナビリティの取り組みなどにより生み出されます。特に、「社会に価値を提供している企業」と広く認知されることは、大きなソフトパワーとなります。企業がソフトパワーを強化するためには、サステナビリティに対する真摯で一貫した姿勢、取り組みも重要です。
企業では、売上や成長率、給与などがハードパワーになると思いますが、最近の世代は、よりソフトパワーを重視しています。人材、顧客をはじめとする多くのステークホルダーを味方につけるために、ソフトパワーがより重要となっています。これもサステナビリティの重要性が高まっている背景の一つです。
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