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企業が政治的問題に対応しなければならない時代。マテリアリティ特定を通じてどの政治的問題に対応すべきか、どのように対応すべきかを共有すべき。

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「現在、企業の世界の政治化が進んでいる。なぜなら、政治の世界の企業化が進んでいるからだ。」シカゴ大学のルイジ・ジンガレス氏の言葉です。これまで企業の役割は、経済を成長させ社会を豊かにするために富を創造することと考えられてきました。その中で生み出される環境問題、社会問題については、政府が規制するという考え方が基本でした。企業と政府の役割分担は明確だったのです。


最近は、政府だけでは環境・社会問題を解決できないこともあり、企業に環境・社会問題への対応が求められるようになっています。サステナビリティ、ESGといった潮流です。


そうした企業に社会的役割が求められる時代にあって、社員も企業に社会・環境問題への対応を求めるようになっています。特に米国などでは、従業員が気候変動、人種差別、DE&I、人工妊娠中絶、銃規制などについて、企業に対応を求めるようになっています。若い世代では、SNSを使って社外に情報を発信しながら企業に対応を求めます。


例えば、セールスフォースの従業員数千人が全米ライフル強化からの受注をやめるようCEOに書簡を送る、アマゾンの従業員が気候変動に積極的に取り組むよう集団抗議するなどです。


この背景には社員側の変化もあります。特に若い社員は、みずからの社会的アイデンティティや個人的価値観を、仕事で表現したいと望むようになっています。その結果、企業が自分たちのニーズや利害に合わせることを要求するようになっています。「パーパスのある企業で働きたい。単なるカネ儲けではなく世の中を良くすることに関わりたい」という考えを持つ人が増え、それが企業に社会的な問題に関与することを求める圧力となっています。


企業にとっては、特に政治的に意見が分かれる問題に明確な立場を表明するのはリスクが伴います。一部の顧客を失うかもしれませんし、社員の間で対立を生むかもしれません。


こうした状況において、企業が政治的な問題についてどのような立場を取るか、対応するもの、しないものをどう峻別していくかを明確にしていく必要があります。サステナビリティ経営におけるマテリアリティ特定は、このためにも有効です。


マテリアリティ特定のプロセスは、企業と環境・社会問題との関係性を理解し、企業のパーパスにもとづく環境・社会問題への取り組みの方向性を共有するものであるべきです。社員をマテリアリティ特定のプロセスに巻き込むことで、自社が取り組むべき環境・社会問題は何なのか、逆に政治的リスクを取ってまで取り組む必要のない問題は何なのかが社内で共有されます。そうすれば、環境・社会問題への取り組みや考え方について、社員が異を唱えることもなくなるでしょう。


従業員が企業の環境・社会問題への対応を強く求めているのは米国などが中心ですが、日本でも声はあげていないが、心の中や仲間うちの会話で企業に環境・社会問題への対応を求めている人は結構いるでしょう。また、グローバル企業では米国などの社員の動きは自分ごとです。マテリアリティ特定を適切なプロセスでしっかり行うことは、企業が政治的な問題に対応しなければならない時代にあって、ますます重要となっています。


(参考)「分断の時代に企業が適切に発言する方法」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2024年11月号

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