企業がダイバーシティを推進する理由は、何だろうか?ダイバーシティは、多様な感性や考え方が交わることで、イノベーションの源泉となる。年齢、性別、障がいの有無、人種、民族、出自、宗教などの多様性を尊重すれば、その交わりにより価値を生み出すことができる。そのためには、多様な人々が単にモザイクのように同じ場所に存在しているだけではなく、融合して化学変化を起こす必要がある。ダイバーシティがインクルージョンとセットで、「多様性の受容」とも訳され、多様性を受け入れるマインドセットを重視するのは、イノベーション創出の観点からも重要なことだ。
もう一つ重要な視点は、企業としては、単にアイデアが出れば良いという訳ではなく、自社の事業として実現できるものでなければならないということだ。したがって、一定の方向性を持ったアイデアを生み出すことが必要だ。そのためには、自社の存在意義としてのパーパス/ミッション、将来の達成像であるビジョンを共有することが必要だ。企業が求めるイノベーションを生み出すには、パーパス/ミッション、ビジョン、さらには、企業の一員として持つべき価値観であるバリューを有した上での「ダイバーシティ」であることが求められる。
ダイバーシティの推進は、イノベーションの源泉となるとともに、新たな市場も生み出す。性別に関しては、LGBTQが注目されている。LGBTQ市場は世界で100兆円を超えるとされるが、LGBTQに対応したサービスとして、ソフトバンクが、同性カップルにも家族割引制度を提供している。ワコールが、身体が女性で心は男性というトランスジェンダーのニーズに応えた、胸を小さく見せるブラジャーを開発し、ヒットさせている例もある。また、丸井が女性用の靴を男性でも履けるサイズに拡大したところ、「自分らしいシューズがはけた」とトランスジェンダーの消費者からと喜ばれたほか、足の大きい女性のニーズも満たし、性別問わずに市場を広げている。
宗教に関しては、ハラル市場なども注目される。イスラム教徒には、食材や食品の調理方法、製品の運搬などに関する様々な規則をクリアして、ハラル認証を取得した商品を提供することが必要だ。イスラム教徒の人口は、2030年には約22億円になると予測されており、ハラル市場は、200兆円とも、300兆円とも言われている。礼拝時間や礼拝の方角を示してくれるLGの携帯電話やカシオの腕時計などがヒットしている。
ダイバーシティに関連して、弱者を支援する、能力を補強する市場もある。高齢者や障がい者が使いやすい電子機器や情報サービスは、大きな市場となっている。また、ロボットスーツやAIにより高齢者や障がい者の感覚、知識および身体的能力を補う製品の開発が進められている。これにより、高齢者や障がい者の活動範囲が広がり、介助者の負担を軽減できるため、人材が不足する医療・介護施設などで利用されている。
企業は、ダイバーシティを推進することで、イノベーション創出力が高まり、ダイバーシティの市場に対する感度が高くなると考えられる。そうした意図を持って能動的にダイバーシティに取り組むか、社会的要請として受動的に取り組むか、それにより企業の競争力には大きな差が生み出されるだろう。
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