レストランガイドで有名なミシュランガイドは、タイヤメーカーのミシュラン社が発行しています。何故、タイヤメーカーがレストランガイドを発行しているのか?CSVの観点で言えば、もともとは、本業であるタイヤが売れるようにするビジネス環境を整備するために発行されました。
ミシュランガイドは、パリ万博が行われた1900年に、自動車運転者向けのガイドブックとして発行されたのが始まりです。当時の内容は、郵便局や電話の位置まで示した市外地図のほか、都市別のガソリンスタンドやホテルの一覧、さらには自動車の整備方法などでした。ミシュランは、自動車旅行が活発化しタイヤの売れ行きが上がることを狙って、ミシュランガイドを無料で配布しました。この「ガイドはタイヤのため」「ガイドはミシュランにとって、ブランド名を売り込むため、タイヤ事業を発展させるために存在する」との原則は、現在も引き継がれています。
その後、ミシュランガイドは有料となり、レストランを星で格付けする方式が開始され、ミシュラン社員が匿名で調査を行うようになりました。ミシュランガイドは、食文化を世界に広げる役割を担うようになったのです。
もともとタイヤ事業の発展のために発行されたミシュランガイドは、その目論見どおりタイヤ事業に好影響を与えていると考えられており、ある国でミシュランガイドが発行されると、その国でミシュランタイヤを買おうと思う人が3%増えると言われています。ミシュランガイドは、食文化と自社事業の発展に貢献しているのです。ミシュランガイドは、発行当初の自動車旅行を活発化させるというよりは、現在では、ミシュランのブランド名を売り込むという役割を担っていると思いますが、結果としては、CSVと言える取り組みとなっています。
最近、このミシュランガイドが迷走しているようです。一つには、オンライン化の波に乗り遅れて赤字が続いています。それから、最近、サステナビリティを積極的に推進しているレストランに、「サステナビリティ・エンブレム」と呼ばれる緑のクローバーマークを付け始めましたが、今一つ評判は良くないようです。
従来のミシュランガイドが求める完全主義が、農産物の無駄遣いを増やし、ストレスの多い職場環境を生み出していると指摘される中での新しい取組みでしたが、今のところその評価プロセスは不透明で、ミシュランのマーケティング戦略(グリーンウォッシュ)でしかないと捉えられているようです。ミシュランは、サステナビリティの評価を調査員による調査結果と匿名での訪問調査に基づいて実施しているとしていますが、料理やサービスはそれで評価できるかも知れませんが、バリューチェーン全体に関わるサステナビリティの取組みをそれで評価することはできません。クローバーマークを貰ったシェフも、本気でサステナビリティを追求しているからこそ、不満を持っているようです。
ミシュランが本気でサステナビリティを追求するのであれば、サステナブルなレストランをはじめ、社会における本物のサステナビリティの取組みを促進する必要があります。さらに言えば、本業との相乗効果を生み出すことが理想です。いろいろなアイデアが考えられると思いますが、サステナブルなレストラン一つ取っても、透明で信頼される評価プロセスを構築するのは容易ではありません。本気でコミットすることが必要でしょう。しかし、それが出来れば、不確実で大きく変化する時代に、持続可能な企業として成長することができると思います。
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