検索
  • takehikomizukami

フィンク・レターから読み解く新しい資本主義に必要なこと

1月18日に、世界最大の資産運用会社ブラックロックCEOラリー・フィンク氏が、投資先企業のCEO向け年次レター、通称「フィンク・レター」の2022年版を発表しました。そのタイトルは、「資本主義の力」です。


ブラックロックは、1988年にフィンク氏らが創設、買収により規模を拡大し、金融危機でリスク分析能力の高さが評価され、米財務省やFRBが助言を仰ぐ存在、世界で最も影響力の強い金融の一つとなりました。そのトップのフィンク氏は、社会・経済の潮流を鋭く読み、それに戦略的に先手を打っていくことに長けています。フィンク・レターは、フィンク氏が持続的に長期にわたってリターンを確保する上で重要と考えるテーマを取り上げているもので、社会・経済の最新の潮流を読み解く上で、重要な情報となります。


今年のフィンク・レターで取り上げているテーマとして特筆すべきものは、「パーパスとステークホルダーとの対話の重要性」「雇用主と従業員の関係の変化」「ネットゼロへの現実的対応」です。


「パーパスとステークホルダーとの対話の重要性」については、企業が真に偉大たりえるためには、「明確なパーパスと確固たる価値観を持っていること」が必要で、さらに重要なのは、「主要なステークホルダーと対話し、彼らのために業務を遂行する重責を認識されていること」だとし、これがまさにステークホルダー資本主義の基盤だとしています。そして、ステークホルダー資本主義は、企業が繁栄の基盤である従業員、顧客、取引先、地域社会と相互に利益をもたらす関係を築くことによって実現する資本主義であり、これが資本主義の力を示すものだとしています。


「パーパスの重要性」に関しては、「新型コロナウイルスで二極化が増幅し、企業の行動が政治問題化する可能性がある中、企業は主導的役割を果たすことができる」「企業経営者が一貫した主張、明確なパーパス、理路整然とした戦略、長期的な視点を持つことが今ほど求められている時はない」「(波乱の時代に進むべき方向を示す羅針盤となる)パーパスをステークホルダーとの関係の基盤と位置付けることが、長期的な成功の鍵となる」としています。


「ステークホルダーの対話の重要」に関しては、「グローバルで相互につながる現代社会においては、企業はすべてのステークホルダーのために価値を創造し、すべてのステークホルダーからその価値を認められることで、株主にも長期的な価値をもたらす」と対話の重要性について語った上で、「ステークホルダー資本主義が有効に機能することで、資本が効率的に配分され、企業は持続的に収益力を確保し、長期的に価値を創造し続けることができる」としています。


「雇用主と従業員の関係の変化」については、「雇用主と従業員との関係ほど、パンデミックによって大きく変化したものはない」とし、離職率、賃金上昇率が過去最高水準にあるとしています。そして、「世界的に、従業員は雇用主に対し一段と高い柔軟性や仕事そのものの意義など、より多くを求めるようになっている」「従業員がより多くのことを雇用者に求めることは、資本主義が効果を発揮する本質的な特徴の一つであり、それが繁栄を促進し、優れた人材の獲得競争を生み、企業が従業員にとってより良い、イノベーティブな環境を整えることを強く促す」とし、ブラックロックの分析によると、「従業員との間に強い絆を築いている企業は離職率が低く、パンデミックの期間にはより良好なリターンを示す傾向が見られた」としています。


「ネットゼロへの現実的対応」については、世界経済の脱炭素における企業が果たす役割に期待が集まる中、「これから何年もかけて続くグローバルなエネルギー・トランジションにいかに効果的に対応していくか、ということ以上に、投資家による資本配分の意思決定、ひいては貴社の長期的な価値に大きな影響を及ぼすものはほとんど存在しない」としています。そして、ネットゼロ社会への移行により、すべての企業、すべての業界が変貌することになるとし、「ここで問われているのは、貴社がそれを先導するのか、あるいは後塵を拝するのかということだ」「世界経済の脱炭素化は千載一遇の投資機会となるが、業種にかかわらず、適応できない企業は取り残されることになる」としています。


一方で、ネットゼロへの移行は一朝一夕に達成されるのではなく、様々な色調のブラウンから、様々な色合いのグリーンへ段階的に向かわなければならないとし、「移行期におけるエネルギーの安定供給、経済性の維持の観点から、天然ガスのような在来型化石燃料は、発電、地域によっては暖房、さらには水素を生産するための手段として重要な役割を果たすことになる」「特定のセクターから資本を引き揚げること、あるいは炭素集約度の高い資産を上場企業から非上場企業へと単に移動させるだけでは、ネットゼロを実現することはできない」など、現実的対応の重要性に言及しています。


日本でも新しい資本主義の議論がなされていますが、富の拡大や株主価値に偏重し過ぎた近年の資本主義を修正する上で、フィンク・レターが語るステークホルダー資本主義の考え方は参考になります。また、パンデミックが促進した雇用主と従業員の関係の変化、脱炭素にどう対応していくかが、新しい資本主義を具体かする上でカギをにぎるでしょう。企業としては、こうした動きを見据えて、パーパスを掲げて変化に主体的に対応していく必要があります。

閲覧数:44回0件のコメント

最新記事

すべて表示

SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」にもありますが、持続可能なまちづくりは、サステナビリティの観点で非常に重要であり、企業にとっての機会も多く生み出します。例えば、「手ごろな価格の住宅」、「スマートシティ」などは、企業にとっての魅力的な機会を提供します。 「手ごろな価格の住宅」は、SDGs実現に向けた動きが2030年までに年間12兆ドルの市場機会を生み出すとする、SDGsとビジネスに関

SDGsの目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、途上国のエネルギーアクセス、クリーンエネルギーの普及の2つの課題を含んでいます。 途上国のエネルギーアクセスは、途上国にいかに電気を普及できるかということです。途上国では、約12億人が電力にアクセスできておらず、特にその半数以上を占めるサハラ以南アフリカでは、電化率は32%に過ぎません。こうした地域では、料理用の木炭・薪、照明用の灯油ラン

最近は、サステナビリティ領域では、「ブルーエコノミー」「ブルーカーボン」といった言葉が広がっているように、海洋生態系の持続可能性が注目されています。SDGsの目標14です。 海洋生態系の持続可能性に関して、喫緊の課題となっているのが、海洋プラスチック汚染と水産資源の維持・回復です。 海洋プラスチックについては、本年3月の国連環境会議で、2024年を目標に、法的拘束力のある国際的なプラスチック規制の