top of page

ビジネスモデル変革にサステナビリティ目標を組み込む方法

  • takehikomizukami
  • 2025年12月21日
  • 読了時間: 7分

サステナビリティ目標の達成とビジネスの成長、すなわちCSVを実現するにはビジネスモデルと組織構造を変革する必要がある。最近のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー記事「ビジネスモデル変革にサステナビリティ目標を組み込む方法」が、イタリアのエネルギー大手エネル、スイスのセメント大手ホルシム・グループなどの世界を代表するCSV企業を例にあげて、CSV実現のための3つの課題とそれに対処する手法を提示している。以下概要を紹介する。


多くのグローバル企業がサステナビリティ目標を公約として掲げているが、こうした約束を果たすには、デジタル技術やAIによって引き起こされた変革に匹敵または凌駕するレベルでビジネスモデルや組織構造を変革する必要がある。


DXを主導したのは大多数がシリコンバレーの企業だったが、サステナビリティの先駆的企業の多くは欧州、中南米、アフリカに拠点を置いている。そうした先駆的企業の10社以上を研究対象とし、エネル、ホルシム・グループ、モロッコのリン酸塩・肥料大手OCPグループ、ブラジルの製紙・パルプ会社スザノなどについては、詳細な分析を行った。その結果を3つの基本的課題への対処方法として示す。


①   戦略の課題:具体的な道筋を明らかにする

サステナビリティを経営課題として掲げるCEOは珍しくないが、先駆的企業のトップチームはさらに踏み込み、サステナビリティ目標達成に向けてどのようにリソースを投入するかに言及している。たとえば、ホルシムはサステナビリティが戦略として成り立たない地域の事業を売却または分社化し、資金調達をサステナビリティの目標に合わせる枠組みを確立している。長期的なサステナビリティ目標と中期的な財務目標とのバランスを図るため、先駆的企業は概してプロジェクトを3つのカテゴリーに分散させている。


拡大が必要な実証済のアイデア

このカテゴリーには、株主が受入れ可能な投資回収期間とリスクプロファイルで実現できるプロジェクトが含まれる。エネルが2014年に化石燃料からのエネルギー転換を約束したとき、太陽光発電や他のグリーンエネルギー技術は小規模では実証済だったが電力大手が必要とする規模では採算がとれなかった。しかしエネルは自社が関与すれば太陽光発電を経済的に実行可能な規模にすることができることを認識し、子会社エネル・グリーンパワーでの実験に乗り出した。


新たな事業機会

サステナブルでない既存事業を変革するには企業は痛みを伴うトレードオフを迫られるが、先駆的企業では中長期的な痛みを和らげるため新しい市場機会に大規模な投資を行っている。エネルはスマートホームサービスや電気モビリティ分野での存在感を確立するため、エネルXとエネル・ウェイを設立した。


変革型プロジェクト

3つめのカテゴリーに含まれるのは、企業のサステナビリティ目標を拡大し、まだ実証されていない技術を探索する長期プロジェクトだ。エネルは、脱炭素を重視してサステナビリティに取り組んでいたが、廃棄物の問題が明らかになると自社の目標を循環型に拡げて、完全リサイクルのプラスチック素材を使った太陽光パネルなどを開発している。


②   組織の課題:部門レベルでグローバルな変革をもたらす

サステナブルでない業務慣行が組織全体に蔓延していることは少なくない。サステナビリティ推進に向けては、課題と機会を組織全体で明確化し共有する必要があり、さらに各部門の優先事業と事業の収益性に敏感に対応する必要がある。先駆的企業では、このような緊張関係を次の4つの方法で管理している。


課題とソリューションをセットにしない

従業員の多くは、すぐに手に入らないソリューションを見つけることを求められているのではないかと懸念して、サステナビリティの問題や機会を突き止めることに消極的だ。エネルの元CEOによれば、そうした懸念が社内のエネルギー転換における重大な障害となっていたという。


先駆的企業では、そうした懸念を解消し、現場の従業員が組織全体のサステナビリティの問題や機会を明らかにするよう促している。たとえばホルシムでは、工場のマネジャーが製造分野のサステナビリティ課題やオペレーション課題を特定し対応を支援するために、専門のイノベーション部門を設けている。POT(Plants of Tomorrow)と呼ばれるこのプログラムは、世界の約140工場に、自動化、ロボティクス、AI、予知保全、デジタルツイン技術を導入し、エネルギー利用の最適化、CO2排出削減などを図っている。


事業部門の変革リーダーを巻き込む

サステナビリティ活動やイノベーションプロジェクトは、事業部門レベルで立ち消えてしまうことが多い。事業部門のマネジャーは、事業の短期的業績に責任を負う部門CEOに報告する立場にあり、広範かつ長期的な傾向にあるサステナビリティ活動を支援する動機づけが乏しいからだ。


それを回避する方法の1つは、部門レベルのマネジャーに二重報告制度を導入し、部門CEOだけでなく専任のサステナビリティ責任者にも報告することだ。


サステナビリティに関する責任をイノベーション担当役員が担うケースも増えている。たとえば、スザノは2023年にイノベーション部門とサステナビリティ部門を統合し、最高サステナビリティ・リサーチ・イノベーション責任者(CSRIO)の管轄下に置いた。植林から最終製品に至るまで、製品開発のあらゆる段階にサステナビリティの視点を取り込む目的で、同社はイノベーションとサステナビリティを統合的に管理するこのモデルを採用した。このアプローチにより、パルプ、紙、バイオ製品のいずれの製品開発においても、木の慎重な選定、植林、サステナブルな林業管理が行われるようになっている。


従業員向けのサステナビリティプロセスを確立する

従業員が関与できるきっかけづくりも重要だ。ホルシム・グループでは、従業員が地域のサステナビリティ課題を特定し、ソリューションを提供するスタートアップと地域企業を結びつけることを支援するプログラムを実施している。スザノでは、現地チームがサステナビリティ目標に合致するプロジェクトを推進する裁量を与え、最大で約20万ドルの予算を管理させている。


実験文化を醸成する

実験文化を醸成するため先駆的企業はさまざまな取り組みを進めている。エネルの「自分史上、最高の失敗」キャンペーン、OCPグループのボトムアップでのハイブリッドチーム組成によるビジョン実現プロジェクトを自由に立ち上げる権限付与、スザノの持続可能な売上創出を促進するコミュニティプロジェクトの奨励などだ。こうした取り組みにより、従業員が主体的にサステナビリティ目標に沿ったイノベーションを実験することが可能となる。


③   コラボレーションの課題:総合イノベーション部門を設立する

サステナビリティを実現するために必要なクリーンテクノロジーや新しいコンピテンシーの多くは社内で入手できず外部のプレーヤーと協力しなくてはならない。特にスコープ3の排出量削減にはサプライヤーをはじめとする外部ステークホルダーとの協働が不可欠だ。


先駆的企業の多くはスタートアップとの協業において「ベンチャークライアントモデル」を採用し、スタートアップの新しいソリューションに対し産業規模のテスト環境を提供している。


一部の先駆的企業は、外部とのコラボレーションを模索する独立した部門を設置し、中核部門は効率性に集中し続けられるようにしている。こうした両利きの組織構造は、事業部門が中核事業を拡大しながら新しいソリューションを探索するのに役立つ。エネルが最初にEaaS(Energy as a Service)事業に進出した最には、同社の発電事業とは切り離したエネルXを通じて実行し、そのリーダーはエネルCEOの直轄だった。


ビジネスにおけるサステナビリティの道のりは孤立して進むものではなく、組織全体で追求していくものだ。このミッションに成功する企業は、上記のように3つの課題に対処している。そして最も重要なのは、組織全体をイノベーションプロセスに巻き込み、創造性とオーナシップ共有の文化を醸成することだ。


(参考)「ビジネスモデル変革にサステナビリティ目標を組み込む方法」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2025年1月号

 
 
 

最新記事

すべて表示
チーフ・サステナビリティ・オフィサーは不要になりつつあるのか?批判派は、サステナビリティが財務的・運営上の重要性を帯びる中で、権限を伴わない影響力では不十分であるためCSOの存在意義が失われつつあると主張する。擁護派は、気候リスクから地政学、AIに至る複雑性の増大が、統合的なシステムレベルの経営幹部をこれまで以上に不可欠にしているとの反論を展開する。

過去20年間、チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)は、サステナビリティの進化の象徴的存在だった。企業がこの役職を設置することは、気候変動、社会インパクト、ガバナンス、透明性、レジリエンスなどへの真剣な取り組みを示すものだった。 状況は変わりつつある。一部では、CSOはもはや先駆者というより遺物と見なされ、建設的な存在というより官僚的だと見なされる傾向にある。CSOはますます不要になりつつ

 
 
 
サステナビリティとサステナビリティ経営の変遷。1990年代の環境経営、2000年代のCSR経営、2010年代のESG経営を経て、反ESGの動きもある中2020年代のサステナビリティ経営はどう進化するか?

サステナビリティおよびサステナビリティ経営が歴史的にどう進化してきたか、改めておさらいする。 サステナビリティは経済成長の負の側面としての環境問題への対応からはじまった。1962年にはレイチェルカーソンが「沈黙の春」で化学物質の汚染問題を提起している。日本でも1950年代後半から1970年代の高度経済成長期において、工場などから発生した有害物質によって公害病が引き起こされた。WWFやグリーンピース

 
 
 
「生産性と人間性をどう両立するか」「成功できるかではなく、役に立てるかを人生の軸とせよ」サステナビリティ経営や生き方に重要な示唆を与えるP.F.ドラッカーとジム・コリンズの対話

経営にサステナビリティを統合するうえでの理論的支柱となっている代表的経営思想家として、P.F.ドラッカー、ジム・コリンズがあげられる。 ドラッカーは、 「マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させる上で三つの役割がある。①自らの組織に特有の使命を果たす、②仕事を通じて働く人たちを生かす、③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献することだ」 というサステナビリティ経営

 
 
 

コメント


Copyright(c) 2019 Takehiko Mizukami All Rights Reserved.

bottom of page