パーパスは、サステナビリティ経営の文脈を超えて、すっかり経営用語として定着しました。日本企業でもパーパスを掲げる企業は増えています。しかし、企業名を伏せてもその企業のパーパスが明らかである「自社ならではの価値を物語っている」パーパスは少ないように思います。そのため、戦略を明確にし、従業員の意欲をかき立てるというパーパスの2つの目的が果たされていないように思います。
この課題認識に関して、DIAMONDハーバードビジネスレビュー2020年7月号に、「パーパスを実践する組織」という論文が掲載されていますが、パーパスをどう掲げ、実践する組織をいかにつくりあげるかを論じています。具体的には、以下のようなことを述べています。
・ 効果を発揮するパーパス・ステートメントは、①戦略目標を余すことなく明確に描き出す、②従業員の意欲をかき立てる、という2つの目的を果たす。そのためには、「そのパーパスは、自社ならではの価値を物語っているか」という本質的な問いに向き合わなければならない。
・ パーパス・ステートメントは、「何のために存在しているか(誰に対して、どんな価値を生み出すか)」「どのようにビジネスを行い、どんな理念に基づいて意思決定を下しているか」「何年後かに目指したい場所はどこか」の3つを明確にすべき。
・ 自社の存在意義をパーパスに効果的に落とし込めているかを評価するため、「自社のパーパス・ステートメントは、自社製品・サービスを購入してくれる顧客にとって有意義か。自社が向上させようとしているのは、誰の生活やビジネスかが明確になっているか」「自社のパーパスは自社ならではのものか。自社が撤退したとすれば、市場にはどんな穴が開くか」「自社はこのパーパスを掲げるにふさわしい企業か。そのパーパスで成果を上げるケイパビリティが自社にあるか、構築できるか。競合他社よりも効果的にパーパスを遂行できる。」を自問すべき。
・ パーパスの実践を確かなものにするには、「(自組織がパーパスを果たすために磨かなければならないケイパビリティを厳選し)適材を引き付ける」「壁を越え、意図的に力を合わせる(組織横断方組織を機能させる)」「パーパスに投資する(パーパスで約束した価値を提供するために競合以上に投資する)」「リーダーが身をもってパーパスを実践する」ことが必要。
・ 取締役会は、自社のパーパスやパーパスを実践する力に目を光らせ、「自社と競合他社のパーパス・ステートメントを並べた場合、従業員は自社のステートメントがわかるか」「従業員にアンケートを実施した場合、パーパスを答えられる者はどのくらいいるか」「顧客に対する約束を果たすために必要なリソースが従業員に配分されているか」など厳しい質問を経営陣に投げかけるべき。
この論文で紹介されている調査結果では、パーパスは報酬や昇進などよりも動機付けとして倍以上重要だと考えられており、パーパスを明確に定義し伝達している企業では、意欲溢れる社員が倍以上多い、90%以上が業界の平均以上に成長し利益を出しているなど、パーパスの重要性が示されています。
DHBRの同じ号では、ソニーの吉田社長がインタビュー記事で、社長就任後、最も重要だと思って最初に時間をかけて取り組んだのは、パーパスとバリューの設定だと言っています。ソニーグループのパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」です。今のソニーらしさが表現されているように思います。
パーパスに基づく経営が重要なのは間違いありませんが、パーパスの力を発揮できるかどうかは、まず「自社ならではの価値を明確に物語る」ことが不可欠です。パーパスを定義または再定義しようとしている企業は、パーパスの力を発揮する機会を逃してはなりません。
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