検索
  • takehikomizukami

パーパスが如何に企業の成長を導くか

今月号(2020.3)のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)に、「パーパスを戦略に実装する方法」という論文が掲載されています。過去5年にわたり年30%以上の成長を続ける米国、欧州、インド企業の調査結果から、パーパスが成長の主要ドライバーが明らかとなりました。高成長企業は、パーパスをお題目ではなく戦略の中心に据え、確実に実行していました。同論文は、パーパスが戦略においてどのような役割を担うか、設定の際のアプローチ、実行方法、ソフト面への影響についての具体的アドバイスを提示しています。


戦略に関して、パーパスは、「活動領域の再定義」「提供価値の再形成」という2つの重要な役割を担っています。「活動領域の再定義」について、高成長企業は、現在の活動領域での競争にとらわれることなく、パーパスを道しるべとして、活動領域を広くとらえ、ビジネスチャンスを見出しています。ペットフードのグローバルリーダーであるマース・ペットケアは、「ペットのためのよりよい世界」をパーパスに掲げています。そして、パーパス実現に向け、ペットフードだけにとらわれることなく、ペット病院事業で成長しており、さらにペットの活動をモニターするスマート首輪などに進出しています。


「提供価値の再形成」について、高成長企業は、現在の提供価値がコモディティ化する前に、パーパスに基づき、新たな提供価値を生み出しています。マース・ペットケアは、「ペットのためのよりよい世界」を実現し、ペットを飼うことを便利で魅力的な、シームレスな体験にする提供価値について検討しました。そして、ペットオーナーの最大の懸念の1つ、健康上の問題の予防に役立つテクノロジーに投資しています。マースは、ペットの活動をモニターし、居場所を追跡するコネクテッド首輪のメーカーを買収し、傘下の動物病院と連携し、機械学習、データサイエンス、獣医学の専門知識を組み合わせ、ペットの健康状態の変化がいつ、どんな行動からわかるか、ペットオーナーが獣医と協力して個別の分野や治療を行うにはどうすればよいかを研究しています。


パーパスの設定については、「遡及的アプローチ」「将来的アプローチ」の2つがあります。「遡及的アプローチ」は、企業の現在の存在理由に立脚した方法です。過去を振り返り、組織的・文化的なDNAを体系化し、会社の歴史をよく理解、社内的な状況にフォーカスし、我々はどこから来たか、どうやってここまで来たか、すべてのステークホルダーにとっての我が社の独自性は何かなどを議論し、パーパスを設定します。


「将来的アプローチ」は、自社の存在理由をつくり変えるものです。将来に目を向け、影響力を発揮する可能性を評価し、社外に焦点を当てます。我々はどこに行くことができるか、どのトレンドがビジネスに影響するか、どんなニーズや機会、課題がこの先に待っているか、我々が信じる将来的なチャンスを切り開くために、我が社はどんな役割を果たすことができるかなどを議論し、パーパスを設定します。


パーパスを実行に移すには、リーダーの重要課題を変えることが求められます。マース・ペットケアは、2015年に経営陣の構成や重点を大幅に変更しました。そして、経営陣全体の新しい課題は、個々の事業の業績にとどまらず、事業間の乗数効果を生み出し、ペットのためのよりよい世界づくりへの貢献度を高めることにあると宣言しました。その実現に向け、アウトサイドインのアプローチを採用し、ステークホルダーのニーズに応えています。2018年には、ペットケア分野の革新的スタートアップをサポートする2つのプログラムをスタート。「ペットケア分野のゲームのルールを変えようとする、すべての人に選ばれるパートナーになる」と公言しています。


パーパスには、「組織の統合」「ステークホルダーとの関係強化」「社会への影響拡大」というソフト面のメリットがあります。「組織の統合」に関しては、企業が大規模な変革を目指し、より広いエコシステムへ進出するとき、なぜペットフードの会社が、技術系スタートアップを支えるプラットフォームを開発する必等があるのかなど、社員は不安を感じるものです。パーパスがあれば、社員は「なぜ」を理解し、新しい方向性に賛同しやすくなり、組織を統合することができます。


「ステークホルダーと関係強化」について、現代は、政府や企業、メディア、NGOに対する不信感が広がっています。同時に、特にミレニアル世代をはじめとする社員が、これまでにないほど、より高尚な理念に寄与すると信じられる組織で働きたがっています。そして、顧客やサプライヤーなどのステークホルダーは、高い目標を力強く掲げている企業を信用しやすく、パーパスを掲げ真摯に実践することで、ステークホルダーとの関係を強化することができます。「社会への影響拡大」について、戦略とは、我々はなぜこのビジネスをしているか、どんな価値を生み出せるかなどの問いかけをすることです。パーパスはどうした問いに答え、各部門が社会全体にどう貢献するかを規定するための基礎を築きます。このようにして全体的な目標に重点的にフォーカスすれば、現在および将来にわたって社会への影響を拡大することができます。


上記のように、パーパスは適切に掲げ、戦略に統合して真摯に実践することで、企業の長期的成長を導きます。本質的に重要なパーパスを掲げるほど、その実現の道のりは険しいものとなるかもしれませんが、それだけの価値があるものです。

144回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示

新たな競争力の源泉「サステナビリティ・インテリジェンス」

「サステナビリティ」が新たな競争軸になりつつある。政策が急速に動き、「脱炭素」がビジネスのメインストリームでも注目を集めるようになっている。地球温暖化は、1992年の「国連気候変動枠組条約」のころから重要な問題と考えられてきたが、30年を経てようやく危機感が共有され、取組が本格化する流れとなっている。 ビジネスにおいても、2000年代半ばくらいから、一部企業は地球温暖化等の環境問題を重要な取り組み

脱炭素の「日陰」戦略を狙うべき!

一橋大の楠木建教授が「日陰戦略」というコンセプトを提示している。旬の事業機会である「日向」は競争が激しいので、「日向」が生み出す「日陰」を攻めるべきだ、そのほうがユニークな価値を創造できる可能性がある、という考え方だ。 競争戦略の本質は競合他社との違いをつくることにある。同時に、その「違い」は長期利益をもたらす「良いこと」である必要がある。しかし、そんなに「良いこと」であれは、他の誰かが手を付けて

SXに向けた本質的マテリアリティの重要性

「SX」、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」という言葉が少しずつ広がっているようだ。SXは、サステナビリティを経営に取り込むことであり、より具体的には、「長期視な視座を持ち」、「従来外部不経済と捉えられて、企業活動の外側にあるものと認識されてきたサステナビリティ課題がもたらす機会・リスクを認識し」、「持続可能なビジネスモデル構築に向けて企業を変革する」ことだ。 SXを実現するためには、