とかく世の中の議論は、二元論になりがちです。大きな政府か小さな政府か、日本型経営か欧米型経営か、物質的豊かさか精神的豊かさか、利益追求か社会価値の創造か、気候変動は真実か陰謀か、いずれが正しいのか、いずれを追求すべきかといった議論になりがちです。
そのため、古いパラダイムから新しいパラダイムにシフトするときには、まず極端に振れてしまう傾向があり、古いパラダイムの良さは忘れ去られる傾向があります。しかい、新しいパラダイムが定着していくと、新しいパラダイムの問題が顕在化し、その解決策として、古いパラダイムの持っていた良さが見直されます。
社会は、そのように発展していくもので、一つのパラダイムともう一つのパラダイムの間を行ったり来たりしながら、それぞれの良いところを取り入れつつ発展してきます。このため、ヘーゲルの弁証法で述べられている「螺旋的発展」が起こります。すなわち、世の中の発展は、あたかも螺旋的階段を登るように、上から見ると円を描いて元に戻ってくるように見えますが、横から見ると、確実に高い位置へと進歩しているのです。
サステナブルな社会への回帰も螺旋的発展のコンテクストで捉えることができます。
資本主義思想の体系化、産業革命以降、人類の人口は6倍以上、経済規模は50倍以上になり、人類社会は大きく発展しました。一方で、気候変動などの環境問題、貧富の格差などの社会問題を生み出しており、また、豊かになった人々が必ずしも幸せを感じていないなど、現在の社会の在り方の問題が顕在化し、このままでは持続可能ではないのではないかという懸念が増大しています。
そこで、経済的豊かさやテクノロジーの進歩など現代社会の持つ良いところは維持しつつも、環境との共生や人々の絆など、昔の社会が持っていた良いところを取り入れ、持続可能な新しいパラダイムを創っていこうというというのが、サステナブルな社会構築の動きです。
サステナブルな社会構築の一つの方向が、自然との共生、自然を生かすということです。化石資源による効率的なエネルギー利用が発達して以降、人類は、自然をコントロールする方向への動きを加速しました。人間が快適かつ効率的に暮らせるように、自然を破壊しつくり変えてきました。しかし、気候変動などの環境問題の深刻化は、その修正を迫っています
自然との共生、自然を生かすという方向性について、自然の力を生かしてエネルギーを発生させようという自然エネルギーは、その分かりやすい例です。水車、風車、天日乾燥など、昔ながらの自然の力を利用するという考え方に最新のテクノロジーを融合させ、マイクロ水力、風力、太陽光・太陽熱発電が急速に進化しています。
なるだけ自然の力を生かそうとするリジェネラティブ農業、人工物を自然界ににゴミとして廃棄しない循環型経済の構築なども同じ流れにあります。
もう一つのサステナブルな社会構築の方向が、絆を取り戻そうとする動きです。現代の組織社会において、組織が効率的にパフォーマンスを発揮するために、社会は人々の機能としての側面を重視してきました。その結果、社会は利害によって結びつくようになり、人と人との感情的な結びつきは、希薄になってきました。
そうした現代の社会では、幸せが感じられないという感情のもと、金銭という対価や利害とは関係なくボランティアに汗を流したり、単に機能的な商品よりは人々の情緒に訴えかけるような製品を求めたり、ソーシャルメディアでつながろうとしたりと、人々が絆を取り戻そうとする動きがあります。
機能や経済の量的拡大を求めるのではなく、人々の感情面を大切にし、質的に豊かな経済を求めていこうとするのも、サステナブルな社会構築の動きの一側面です。
こうした、過去の社会が持っていた良さも取り入れた新しいパラダイムとしてのサステナブルな社会を構築するというメガトレンドの中で、企業が取り組む戦略としてCSV/シェアードバリューが広がっています。
シェアードバリュー自体も、社会価値と企業価値の両方を追求するという、一昔のパラダイムとしては対立するものを止揚(アウフヘーベン)させ、螺旋的発展をもたらすコンセプトです。環境を保全・再生し、人々にやりがいを感じさせ、社会の質的豊かさをもたらす社会価値の創造と、人々に生活の糧を与え、社会の量的豊かさをもたらす企業利益の追求を両立させるものです。
シェアードバリュー戦略を構築する際には、社会価値と企業価値を両立させるために二元論を止揚させるマインドセットを持つことが重要です。「螺旋的発展」「止揚」は、シェアードバリューを進める上で極めて重要なキーワードです。
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