日経新聞の「やさしい経済学」で、慶応大学の白井教授が、サステナブル消費が進まない理由と解決策について述べていました。
サステナビリティに多くのアンケートで、多くの消費者が「少々値段が高くてもサステナブルな商品を選択する」などサステナブル消費に対して好意的な回答をしています。企業側がそれを真に受けてサステナブルな商品を提供しても、実際には想定していたようには売れません。
白井教授は、サステナブル消費を好意的に評価していても、実践しない消費者が多い理由を4つあげています。
1つ目は、日常生活の消費ルーティンを変えたくないという心理。特に日用品の選択、消費、廃棄など繰り返し行う行動については、労力と時間を最小化するルーティン形成を必要としますが、ルーティングは一度形成されると変更しにくいため、サステナブル消費の実践を妨げます。
2つ目は、「規範自己」というマインドセット。サステナブル消費では「するべきだ」という「規範自己」がマインドセットになりますが、これは即座に喜びを得ることに焦点を当てる「願望自己」とは対立します。サステナブル消費は、地球環境保全などを目的とし、その効果が遠くて見えにくいため、セルフコントロールが必要で、実践は容易ではありません。
3つ目は、購買時にサステナビリティの価値が意識されにくいこと。買い物時には様々な商品が目につき、魅力的や安いといった価値が顕著になっていまいます。
4つ目は、属性間のトレードオフの発生。サステナブル商品は品質が劣ると知覚されるリスクがあり、環境と品質のどちらをとるかというトレードオフが生じやすいものです。特に安全性や衛生面などパフォーマンスが重要な製品でそうした傾向があります。サステナビリティのために品質を下げていると推測されれば、購買意図は低下します。
こうした心理的バリアーを低減してサステナブル消費のどう促進するか。白井教授は5つの方法をあげています。
1つ目は、買い物環境でサステナビリティ価値が際立つようにすること。例えば、売り場にサステナブル商品だけのコーナーを作ると、他の商品と比べることが減るため、他の価値が顕著になるのを防げます。
2つ目は、パフォーマンスが重視される製品ではパフォーマンスとサステナビリティの情報を分離すること。購買時点では機能を訴求し、サステナビリティ情報はウェブサイトに掲載している例もあります。特に、大衆向けにパフォーマンスをアピールしてきたブランドが、新たにサステナビリティを訴求する際に有効です。
3つ目は、社会的影響の強化。地域社会など集団で取り組む仕組みを作ると、集団効力感が増し、個人で行うより実践しやすくなります。集団行動が自己の義務感を強化し、「サステナブル行動をとるべきだ」といった規範自己のマインドセットを活性化できます。
4つ目は、マインドセットと一致する情報の発信。サステナブル消費は地球環境や未来世代に焦点を当てるので、未来志向の消費者が実践する傾向にあります。現在志向の消費者に地球規模の環境問題を示してサステナブル消費を促すと、抵抗感や非サステナブル行動が増加するリスクがあり、注意が必要です。身近な地域への影響など、現在志向と一致する情報の方が説得力を高めます。
5つ目は、先にコミットメントを形成すること。ホテルのフィールド実験では、チェックイン時に顧客にタオルの再使用を約束してもらうと、守る義務はなくても、タオルの再使用率が上昇します。サステナビリティ価値を含むコミットメントが先行すると、他の価値との対立が避けられます。
サステナビリティを進めようとする企業や担当者は、「サステナブルな商品なんて売れない」「消費者はそんなものは求めていない」と嘆くばかりでなく、こうした課題と解決策を踏まえて可能性を追求すべきです。
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