サステナビリティ経営の一丁目一番地は、マテリアリティの特定と目標の設定です。外部環境やステークホルダーの期待・要請とその長期的変化が自社経営・強み・ビジネスモデルにどう影響するかを分析・議論し、マテリアリティを特定し、経営に統合します。そして、マテリアリティに対する取り組みをマネジメントするため、まず目標を設定します。
この目標設定について、ESG投資研究で著名なハーバード大学のジョージ・セラフェイム教授の論文(「ESG戦略で競争優位を築く方法」DHBR2021.1月号)によると、「穏当な目標よりも、とてつもない目標のほうが達成できる可能性は高い」とのことです。気候変動に関する800以上の企業目標を分析して得た結論とのことです。別の研究でも、1,000以上の企業の分析から、気候変動に関して相対的に野心的な目標を掲げた企業は、同業他社よりも大きな投資を行い、オペレーション分野で重要な変革に乗り出し、その過程でイノベーションを推進したことが判明しているとのことです。中途半場な目標ではなく、トップマネジメントが強くコミットした野心的な目標のほうが、社員も真剣に取り組み、実現性が高くなるというのは、理解できます。
目標を設定した後は、それを実現するための具体的な計画を策定し、取組みを実践しつつ、PDCAを回すことになります。これに関して、目標だけあっても計画がなければ、バラバラの取り組みが積み重ねられたとしても、目標の実現性は担保できません。日本企業は、外圧にさらされて、突然高い長期目標を設定することがありますが、具体的な計画がなく、社員もその実現を懐疑的に見ているというケースが結構あるように思います。
日本経済新聞の記事(「『脱炭素』市場が値踏み」2020.12.15朝刊)によれば、製鉄企業で同様に2050年までにカーボン排出実施湯ゼロを目標に掲げている日本製鉄とアルセロール・ミタルに関して、具的な計画を策定しているアルセロール・ミタルのほうが、株価上昇率が高いとのことです。アルセロール・ミタルは、水素などを活用したカーボン排出ゼロの鉄鋼のコストは3~8割増となるが、需要は2022年までに20倍になるなどの成長見通しを示し、金融のサポートの重要性、実現のための国をまたいだルール形成、再生可能エネルギーを潤沢に使える環境整備など、実現に向けて何が必要かの説明をしています。一方、日本製鉄は、今後計画を発表する予定です。
外部環境の経営的意味合いをしっかり検討した上でマテリアリティを特定し、バックキャスティングで野心的な目標を設定し、それを実現する具体的な計画を策定し、着実に実践しつつ、定期的に進捗状況を確認し、必要があれば計画および取組みを改善して、目標実現に向かっていく。サステナビリティ経営の基本ではありますが、しっかり出来ている企業は少ないように思います。最近は、投資家もそういったところを見るようになってきています。サステナビリティ経営を本格化したい企業は、まず、この基本を実践すべきでしょう。
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