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サステナビリティはシステムとして捉える必要がある。気候変動と生物多様性の関係性から

サステナビリティの課題の中で、現在特に注目されてるのは、気候変動です。IPCCの第6次評価報告書で、人間活動が地球温暖化を引き起こしていることは「疑いの余地がない」とされ、CO2濃度が2倍になると気温上昇は、2.6~4.1℃となり、早期に対策を取らないと、かなりの影響が出ることが確実視されています。


気候変動に関しては、人間活動によるCO2濃度の上昇が問題であるから、CO2を減らせばよい。そのためには、各国で目標を設定して、それを実現すれば良いということで、自動車のEV化、エネルギーの再エネ化、水素/アンモニア化などが進められています。


しかし、国内のCO2排出削減だけ考えていると、既存のインフラを用いてアンモニアを輸入し、それを混焼してCO2を減らせば良い。アンモニアの生産におけるCO2排出は他国のことなので考える必要はない。さらには、肥料用アンモニアをエネルギー用に使うことによる食料生産への影響などは、誰か他の影響を受ける人が考えれば良い、となってしまいます。また、EV化に必要なバッテリー用アメタルの採掘に伴う人権問題、生態系破壊などの問題も、資源生産者が考えれば良い、となってしまいます。


サステナビリティを追求するためのCO2排出削減が、人間活動全体としてのCO2排出削減につながらない、他のサステナビリティの問題を引き起す、といったことでは、意味がありません。サステナビリティは、ライフサイクル、サプライチェーン等を含めたトータルで、システムとして考える必要があります。


気候変動は、他のサステナビリティ課題、生物多様性、資源利用、水、人権などと密接に関係します。気候変動対策を考える場合には、そうした他のサステナビリティ課題との関係を理解しておく必要があります。そうすることで、気候変動の影響の広がりを理解できますし、気候変動対策が他のサステナビリティの問題を引き起こすといったことをなくせます。また、気候変動対策のオプションも広がります。


こうしたサステナビリティ課題の関係性の中でも、気候変動と生物多様性との関係は、人間活動の多様な側面に関連し、グローバルに影響が広がっている課題で、特に重要です。この2つの問題に関しては、最近、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)というそれぞれの課題に取り組む政府間科学機関が共同で報告書を発行しています。


例えば、畜産は、メタンなどの大量の温室効果ガスを排出し、気候変動を促進しますが、また、飼料生産も含めて大規模に土地を利用し、森林破壊などにより生物多様性喪失を促進します。森林破壊は、自然の炭素吸収能力を低減し気候変動を促進することとなり、気候変動は、森林火災などを増大させ、森林・生物多様性を再生能力を超えて喪失させることで、気候変動と生物多様性喪失が相乗的に加速します。


また、気候変動と生物多様性喪失の問題を別々に考えていると、外来種の木々を植樹して炭素を蓄える力を強化させるという気候変動対策が、モノカルチャーのプランテーションを促進して、生物多様性を喪失してしまうといった形で、構造的に適切な対応になりません。


一方で、気候変動と生物多様性の問題を組みわせることで、適切な対策を取ることができます。例えば、再生可能エネルギー生産のため土地を利用する場合、太陽光パネルの周りで放牧や作付けを行うなど、食料とクリーンエネルギーを同時に生産し、さらに受粉媒介者やその他の野生生物にメリットをもたらすような、統合型アプローチを採用するといったことです。また、生物多様性のホットスポットや炭素貯蔵量の多いエコシステムである熱帯雨林、泥炭地、マングローブの森林破壊を食い止めることは、気候変動と生物多様性保全に有益です。


上記の例は、気候変動と生物多様性を統合的に考える必要性を示していますが、それ以外のサステナビリティも含めて、システムとして捉えることが重要です。また、そうした思考ができる人材を増やすことも必要でしょう。


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