DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2021年4月号掲載の「人々の価値観と習慣を変える『概念シフト』のイノベーション」で、概念とは何か、概念と現象の関係性に基づき、どう概念をシフトするかが述べられている。概念とは、現実世界の予測のための「正確かつ単純に対象を表現したモデル」と説明されている。もう少し分かりやすくすると、「人々が共通認識を持つためのシンプルな表現」といった感じだろう。概念と対比されている現象は、現実世界のモノやコトのことで、人々の行為などが含まれる。
上記論文では、「概念が既知・未知」「現象が既知・未知」で関係性を整理している。例えば、「概念未知・現象既知」とは、目が疲れる、目がゴロゴロするという現象はあるが、それを表現する概念がない状態だ。そこに「ドライアイ」という概念を新たに定義することで、概念と現象が結びつく。「概念既知・現象未知」とは、例えば、AIという概念はあるがと現象と結びついていない状態だ。そこに、IBMのアルファ碁が語の世界チャンピオンを破ることで、ディープラーニング、人を超える知能という現象が具現化され、概念と現象が結びついた。
サステナビリティの世界には、サステナビリティのほか、SDGs、ESG、CSR、CSVなど様々な言葉がある。SDGsは国連が定めた2030年に向けた17のゴールで、これは概念ではない。ESGもEnvironment、Social、Governanceという分類を示しているだけなので、これも概念ではない。一方、CSR、CSV、そしてサステナビリティは概念だ。
CSRは、どのような現象と結びついているだろうか。一般には、寄付やボランティアといった社会貢献活動と結びついているのではないだろうか。本来は、ISO26000に規定されているように「企業活動が社会・環境に及ぼす影響に対して責任を果たす」という概念として創られた。しかし、現象が未知であったため、従来から行われていた社会貢献活動と結びついたのだろう。本来、CSRは重要な概念で、適切な現象と結びつけて広げる必要があったのだが、うまくいかなかった。そもそもCSRの対象範囲が広いことに加え、CSRの概念を現象と結びつけて広げるべき立場にあるCSR専門家などが、本来のCSRの概念を超えて、事業で社会価値を生み出す攻めのCSRが重要だ、果てはCSRは経営そのものだ、などとして、概念を曖昧にしてしまったことも原因に挙げられるだろう。CSRとは、企業がサプライチェーンの社会・環境問題にも責任を持つことだなどと、概念を明確にしたほうが良かったのではないか。今からでも、具体的事例(現象)と結びつけて概念シフトをする必要がある。
CSVは、どうだろうか。こちらは、概念自体が十分広がっていないが、採算をやや度外視した(規模の小さな)社会貢献型ビジネスと捉えている人も多いのではないか。日本企業がサステナビリティレポートなどで紹介しているCSVは、そうしたものが多い印象だ。CSVは、製品・サービス、バリューチェーン、ビジネス環境の3つのアプローチから構成される概念であり、3つのアプローチごとに現象が異なるため、概念を広げるには工夫が必要だ。3つあることを示すビジュアルと3つの典型的で分かりやすい事例を示して、概念と現象を結び付けることが必要だ。これは工夫していきたい。
サステナビリティついてはどうだろうか。こちらは概念自体が確立しておらず、現象も多様だ。「概念未知・現象未知」の状態にあると言えるだろう。国連「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)は、持続可能な発展(Sustainable Development)の概念を「将来世代の欲求を満たしつつ、現在世代の欲求も満足させるような発展」としているが、これも曖昧だ。サステナビリティについては、多くの人々の多様な取り組みを促すよう、曖昧で広い概念のままにしておくことでも良いのかも知れない。
一方、サステナビリティ経営は、企業としてどういう経営を目指すのかが明らかとなるよう、現象と結びついた明確な概念とすべきだ。ビジョン、マテリアリティ、戦略、活動などが特定の社会価値の旗頭(パーパス)のもと整合している必要がある、これについては、ユニリーバなど先進企業の事例を現象として結びつけることが有効だろう。サステナビリティ経営の概念は、シンプルに表現しつつ先進企業の分かりやすい例と結びつけて広げていきたい。
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