以前、世界が目指しているのは、「すべての人々が平和と一定の豊かさのもと潜在能力を発揮でき、地球への負荷が再生可能な範囲に収まっている」世界、ドーナツ経済のような世界と書いた。こうした世界を目指すのであれば、サステナビリティは取り組まなければならないものだ。
昨今は、「サステナビリティを通じて企業価値を向上させる」論調があり、それは実現すべきものだが、本質的には、「企業価値を向上させるために、サステナビリティに取り組む」のではない。「目指す世界を実現する」ために、企業もサステナビリティに取り組む必要があるのだ。
これまでのパラダイムでは、企業は、利益、企業価値を追求するものと捉えられてきた。新自由主義の考え方が広がってからは、特に企業が利益を追求する姿勢が強まっている。新自由主義の理論的支柱であるミルトン・フリードマン氏などは、「企業経営者の使命は株主価値の最大化であり、それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない」と言い切っている。
何故企業は利益を追求しているのか?それは、企業が利益を追求することで、富が創造され、人々が豊かに、そして幸せになると信じられてきたからだ。確かに、世界全体の富は増え、取り残されている人はいるものの、多くの人は豊かになってきた。ドーナツ経済の内側の円は拡大を続けてきた。「企業経営者は、株主価値、利益だけ考えていれば良い」というという考えは、そうすることで、市場メカニズムが効率的に機能し、より豊かな社会が創られるという信念に基づいている。
しかし時代は変わった。ドーナツ経済の外側の円を超えないようにすることの必要性が明らかになってきた。また、ドーナツの内側の円が均等に発展しなければ、すべての人に幸せをもたらすことができないことも明らかとなってきた。世界の目標が「富の創造、豊かになること」から、前述の「目指す世界を実現する」ことになった。
そのため、企業活動の目的も「利益を追求する」ことから、「社会に価値を生み出すこと=目指す世界の実現に貢献すること」になりつつある。そうしたパラダイムシフトが進みつつある。「企業が利益を追求する」パラダイムにおいては、「利益につながるか?」「企業価値を向上させるか?」が経営の判断軸だった。そのため、サステナビリティについても、「サステナビリティは儲かるのか?」「サステナビリティは企業価値を向上させるのか?」という問いがなされてきた。
新しいパラダイムでは、企業活動の目的は「目指す世界の実現に貢献すること」で、それは企業が取り組むべきサステナビリティそのものである。この新しいパラダイムでは、「サステナビリティは、取り組まなければならない」もので、「取り組むのが当たり前」のものだ。
問うべきは、「サステナビリティは儲かるのか?」ではない。これだとNOだと、サステナビリティに取り組まない、最小限必要なことだけ取り組むとなってしまう。必要な問いは、資本主義のパラダイムでは、企業は儲ける必要があるという現実を踏まえた、「サステナビリティを儲かるようにするには、どうすれば良いか?」だ。サステナビリティにNOという答えはない。
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