最近、「信越化学が植物肉素材に参入」と報道されました。食肉生産の環境負荷の高さや、動物福祉や健康への配慮などの観点から、人口が増える中、現在の形で食肉供給を増大させ続けることは困難です。そのため、植物肉・代替肉は、成長が確実な有望市場と考えられています。
その有望市場に食品メーカーが参入するのは当然のことで、個人的には、日本の食品企業の動きは全般的に遅すぎると考えています。その中で、信越化学がこの市場に参入するのは、非常に面白いと思います。
信越化学が参入したのは、植物肉に混ぜる接着剤の市場です。パルプに含まれるセルロースから作り、加熱後に植物肉が常温に戻っても形状を安定させる機能があるとのことです。これにより、肉のつなぎに使用される卵白も不要になるとのことで、この点からもサステナブルな素材です。
サステナビリティは、様々な新しい市場を生み出します。それらを機会として掴むには、自社にとってのどのような意味を持つか、自社にとっての市場となり得るか、自社の強みを生かせるのかなど、常に感度を高めておく必要があります。信越化学には、そうした感度があるのでしょう。
サステナビリティは、事業機会を生み出すだけでなく、時に産業構造を大きく変えます。CO2排出削減の要請により、エネルギー産業や自動車産業などは、大きく変わりつつあります。自動車産業でいえば、EV化により必要とされる技術、バリューチェーンが大きく変わり、他産業の企業やスタートアップの参入も進んでいます。日本企業が強みとしてきた、ガソリン車のすり合わせ技術のバリューチェーンが、モジュールによる組み合わせのバリューチェーンになり、部品点数も削減されることで、裾野の広い日本の自動車産業は、大きな影響を受けることが想定されています。
こうした産業構造の大きな変化が、食品分野でも起こる可能性があります。従来の食肉のバリューチェーンと植物肉・代替肉のバリューチェーンは、まるで違います。植物肉では、従来の食肉企業よりも、不二製油のような大豆を扱ってきた企業のほうが強みを生かせるかも知れません。不二製油のほか、大塚食品、ネスレなど、食肉以外の食品企業がこの市場に参入しています。インポッシブルフーズ、ビヨンドミートを筆頭とする多くのスタートアップも参入していますし、さらには、DSM、デュポンなど、信越化学以外の素材メーカーの参入も進んでいます。
サステナビリティが産業構造を大きく変えうるほど大きな影響を及ぼすようになっている時代となっています。サステナビリティの動向にアンテナを張るとともに、それがどう自社および業界に影響するかの洞察力を持つことが益々重要となっています。信越化学の記事を読みながら、改めてそう思いました。
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