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グリーンディールの政治力学。日本は危機感を持って対応すべき

欧州がグリーンディール政策を進める中、米国でもバイデン政権となり、グリーンニューディール政策が進められている。いずれも、気候変動対策への投資を進め、新しい形で経済を発展させようとするものだ。脱炭素に向けて、米国では4年で2兆ドル(約200兆円)、欧州では10年で1兆ユーロ(約120兆円)の投資が予定されている。


グリーンディールは、気候変動リスクへの危機感に基づく政策だが、気候変動リスクには不確実性があり、必ずしも危機感が共有されておらず反対もある。グリーンディールを継続し成功に導くには、気候変動リスク対策を超えた政治的意思が必要となるだろう。


グリーンディール/グリーンニューディールのモデルとなっている世界恐慌時のニューディール政策では、米国が歴史的な労働闘争の真っただ中にあり、ストライキが横行していた。また、大恐慌による困窮から発生した大衆運動が、社会保障制度や失業保険など広範にわたる社会的なプログラムを要求し、社会主義者の影響力が強まっていた。ニューディールは、こうした時代に、本格的な革命を阻止するための政策として、社会主義的考えを取り入れて実践された。


米国が第二次世界大戦後、マーシャルプランによる欧州の復興支援を決定したときも、同様の政治力学が働いた。当時、欧州のインフラは破壊され、経済は危機的状況にあったため、米国政府は、西欧の多くの地域が社会主義による平等主義の理想を最善の方法とみなし、ソビエト連邦の影響下に置かれてしまうことを懸念していた。実際、多くのドイツ人が社会主義に惹かれていた。そこで、米国政府は、西ドイツで、社会主義的要素を十分備えた市場経済を構築することで、革命的なアプローチの魅力を失わせることを目指すこととした。そして、地元産業の支援、強力な労働組合、強固な社会福祉という、社会民主主義との混合経済モデルで西ドイツを再建した。


このように革新的な政策が導入される場合には、強い政治力学が働く。グリーンディールについては、どうだろうか。米国にとって、中国の覇権国としての台頭、サプライチェーンでの影響力、途上国での影響力の増大は脅威だ。ネットゼロ社会に向けた主導権を中国に握られるわけにはいかないという考えはあるだろう。


内政においては、格差と分断が課題だ。グリーンディールは、雇用と公平な経済を創り出すことで、この課題を解決できる可能性がある。再生可能エネルギーは、化石燃料よりも多くの雇用を生み出す。労働者に雇用を保障することは重要だ。また、グリーンディールは莫大な資金を必要とするが、この財源を多国籍企業による税逃れを防ぐための最低法人税率の導入、富裕層への課税増加などで賄うことで、格差を是正することができる。


グリーンディールに関しては、上記の理由もあるだろうが、長期的に経済の在り方を変化させていくことが不可欠な中、自国がイニシアチブをとって、新しい経済におけるリーダーとなるという目的が強いのではないか。気候変動リスクに不確実性があるとしても、長期的には必ず対応が必要となるという認識は共有されるようになっている。政策的に早く大胆に動くことで、新たなグリーン経済をけん引する企業を育て、新たなパラダイムでのリーダーとなれる。


欧米は、化石資源企業を保護する政策から脱却し、グリーンディールで新しい経済における覇権を競うようになった。日本も、脱炭素の新たな動きに受け身に対応することなく、長期的な構想力を持って大胆に動く必要がある。日本はデジタル化でも立ち遅れたが、高度成長期以降、国家の在り方を構想する力を失っているようだ。グリーンの大きな波が確実に押し寄せる中、これが最後のチャンスとの危機感を持って、対応すべきだ。


(参考)

ナオミ・クライン「地球が燃えている」

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