top of page
検索
  • takehikomizukami

アーステッドにみる脱炭素に向けた企業変革

世界的に、脱炭素あるいはサステナビリティに向けて大きく企業の業態を変革する企業が増えています。小さな機械メーカーから世界最大の風力発電機メーカーになったヴェスタス、廃棄物処理企業から廃棄物を資源として価値を創出する企業に生まれ変わったウェイスト・マネジメント、鉱物を採掘・精錬する企業から都市鉱山から価値を生み出す企業に変化したユミコアなどです。

デンマークの洋上風力発電大手アーステッドも、脱炭素に向けて大きく事業を変革した企業です。アーステッドは、1972年に国営石油・ガス会社として設立され、2000年代から電力事業を推進しています。アーステッドは、供給するエネルギーの85%を石炭で賄っていた2009年に、2040年までにエネルギー供給の85%を再生可能エネルギーで供給するとのビジョンを掲げました。そして、洋上風力発電の世界最大手となり、85%再生可能エネルギーのビジョンは、2019年に21年前倒しで達成してしまいました。

アーステッドの洋上風力発電ビジネスのCEOインタビューによれば、変革のきっかけは、2008年にドイツでの石炭火力発電プロジェクトが、地域の強い反対により中止となったことです。2009年のCOP15で、再生可能エネルギー推進が大きな議題となったことも、アーステッドの意思決定を後押ししました。

そして、今後の成長領域はどこであるべきか、十分な市場があり、アーステッドが強みを持ち差別化できる領域はどこかを議論しました。その答えの一つが、洋上風力発電でした。アーステッドは合併企業なのですが、もとの企業の一つが先行的に洋上風力発電に投資していたからです。そして、外部パートナーと連携してバリューチェーンを構築し、それまでにない規模の洋上風力発電を実現しました。

化石燃料由来のエネルギーに強みを持っていた企業として、社内には再生可能エネルギーへのシフトに懐疑的な意見がありました。しかし、その後化石燃料価格の変動でビジネスに打撃を受ける中、再生可能エネルギー、洋上風力発電シフトに向けて社内の合意形成がなされていきました。また、英国政府の洋上風力支援もあり、アーステッドの洋上風力ビジネスは大きく発展しました。

そして、2017年までには石油・天然ガス事業をすべて売却し、石炭事業も2023年までには売却し、2025年には発電のカーボンニュートラルを実現する見込みです。

このようにサステナビリティに向けて変革する企業は、社会の変化に対する感度の高さ、それを戦略に落とし込み実現するリーダーシップを持っています。脱炭素に向けて世界が大きく動く中、日本企業は、どうも感度が鈍いように思われてなりません。それは、ステークホルダーの感度の影響もあるのでしょうが、まずは、そこを強化する必要があります。サステナビリティという機能の最も重要な役割の一つです。

閲覧数:81回0件のコメント

最新記事

すべて表示

サステナビリティやステークホルダー資本主義の議論になると、必ず新自由主義の象徴とも言えるミルトン・フリードマンが引用されます。 拙著「サステナビリティ -SDGs以後の最重要戦略」でも、フリードマンの「企業経営者の 使命は株主利益の最大化であり、それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない」という言葉を引用しています。そして、効率的な市場を通じて世界を豊か

最近は、ジャニーズのニュースを見ない日はありませんが、この問題は、企業が人権への対応を考える良い機会となっています。 9/7のジャニーズ事務所の会見を受けて、アサヒグループHDは、いち早くジャニーズ事務所のタレントを広告に起用しない方針を発表しました。勝木社長は、ジャニー氏の行状は容認しがたく、「2019年に策定したグループの人権方針に照らせば、取引を継続すれば我々が人権侵害に寛容であるということ

最近は、ESGの文脈で非財務と財務の関係性を分析することが流行っているようだ。ESGの取り組みと企業価値との相関関係を重回帰分析するツール、非財務要素がどう財務価値につながるかの因果関係をロジックツリーのように示す方法などが提示されている。 しかし、こうした方法やツールは、自社のこれまでの取り組みを肯定する、ESGで先進的な取り組みをしているように見せる、といったことに使うだけでは意味がない。実際

bottom of page