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アンモニアは脱炭素の選択肢になるか?他産業も含めたサプライチェーン全体を見る力を養う必要性

更新日:2021年9月19日

脱炭素の動きを中心に、産業バリューチェーンの大きな変革が始まっています。自動車の例で言えば、EV化が進み、電池材料など新たなバリューチェーンが必要となっています。また、ガソリンから電気へとエネルギー源のバリューチェーンが変化します。さらには、鉄鋼、アルミ、など原材料も脱炭素に向けてバリューチェーンの変化が求められています。


こうした変化が多くの業界で同時に起こりつつあります。大きな潮流としては、電化と電気の再エネ化、水素の利用、バイオマスの利用、サーキュラー化がありますが、ほぼすべての産業でバリューチェーンの変化が起こっており、重なり合う部分も多くあります。


最近エネルギー業界で注目されるアンモニアで考えてみましょう。水素と窒素の化合物であるアンモニアは、燃焼してもCO2を排出せず、既存の火力発電設備が活用でき、常温でも加圧すれば液化するため圧縮して輸送しやすいなどから、発電用燃料として、日本のエネルギー業界が注目しています。


しかし、アンモニアについては、燃料時の窒素化合物の排出などの課題もありますが、何といっても調達面が課題となるでしょう。


アンモニアは、1906年に開発されたハーバー・ボッシュにより効率的に生産されるようになりました。そして、農作物に窒素を供給する化学肥料の大量生産が可能になりました。それ以前は、単位面積あたりの農作物の量に限界があり、農作物の量が人口増加に追いつかず、人類は貧困と飢餓にあえぐ(マルサス人口論)とされていましたが、アンモニアがこの課題を解決し、人類の発展に大きく貢献しました。


そういう意味では、アンモニア供給のバリューチェーンはすでに構築されており、エネルギー向けにも活用できます。しかし、今後さらに人口が増加する中で、アンモニアの肥料需要も増加することが予測されています。もしアンモニアをエネルギーとして使用するとすれば、食料生産向けの肥料バリューチェーンとバッティングすることになります。


また、ハーバー・ボッシュ法は、大量のエネルギーを消費する方法で、世界で消費されるエネルギーの2%はハーバー・ボッシュ法の反応に使用され、世界のCO2排出量の1%を占めるとされます。アンモニア発電で、発電時のCO2排出を抑えたとしても、アンモニア生産でCO2を大量に排出していては、意味がありません。


そのため、再生可能エネルギーを用いて水と窒素を合成してアンモニアを生産する方法などが、研究されています。これで大量にアンモニアが生産できるようになるかは分かりませんが、仮に大量生産ができたとしても、その生産は再生可能エネルギーが豊富な地域で行われるようになることになります。そうした地域で、再生可能エネルギーがアンモニア生産に振り向けられるかは、不確実です。どちらかというと、モビリティ向け、産業用、家庭用の燃料電池など用途が広い水素のほうに関心が向けられているように思います。アンモニアバリューチェーンは、水素バリューチェーンともバッティングします。


アンモニアは、発電時のCO2排出、調達や輸送のし易さだけを考えれば、優れた燃料にも見えますが、バリューチェーン全体でみるとCO2排出量が大きいという根本的な課題を抱えていますし、そのバリューチェーンは、食料用肥料などとバッティングします。脱炭素に向けた取り組みを進める場合には、バリューチェーン全体、他産業も含めたバリューチェーンとの関係を見る必要があります。


脱炭素ですべての産業でバリューチェーンが大きく変化する中、他産業を含めたバリューチェーン全体を見る力を養う必要があります。

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