サステナビリティ推進にあたっての基本の1つは、バリューチェーン全体で考えることです。企業が新たな取り組みを進める場合は、グローバルの3大サステナビリティ課題である気候変動、生物多様性/自然資本、人権を中心に、バリューチェーン全体の環境・社会的影響を考慮する必要があります。
企業の取組みもそうですが、政策においても、バリューチェーン全体の影響を考慮する必要があります。特に、脱炭素の取組みにおいては、バリューチェーン全体への目配せが欠かせないでしょう。
その点で気になっているものに、日本政府や日本のエネルギー企業のアンモニアの推進があります。
アンモニアは、燃焼してもCO2を排出しないカーボンフリーなエネルギー源として、既存の石炭火力発電への混焼・専焼に向けた技術開発が進められています。アンモニアは、肥料用途を中心に広く利用されており、生産・運搬・貯蔵などの技術およびサプライチェーンが確立していることもアンモニア推進の理由となっています。
日本政府は、エネルギー基本計画で、2030年までに、石炭火力発電への20%アンモニア混焼の導入・普及を目標として掲げていますが、アンモニア混焼等の推進にあたっても、バリューチェーン全体への目配せは欠かせません。
アンモニアは、窒素と水素の混合物に鉄触媒を加えて高温・高圧で合成することで、製造されます(ハーバー・ボッシュ法)。しかし、この方法は、エネルギー消費やCO2排出が大きいことが課題となっています。
窒素は、空気中に潤沢に存在しますが、空気を―196℃まで冷却して、液体窒素として空気中から取り出します(深冷分離法)。
水素は、現在は天然ガスなどから製造されており、その際に大量のCO2が発生します。
また、天然ガスから水素を作る反応(水蒸気改質法)は吸熱反応のため、加熱し続けることが必要で、大量のエネルギーを消費します。
さらには、窒素と水素の合成は、高温・高圧で行うため、ここでもエネルギーが必要となります。
国内の大手電力会社の全ての石炭火力発電で20%の混焼を実施した場合、年間約2,000万トンのアンモニアが必要となるとされています。これは、現在の世界全体のアンモニア製造の10%程度、アンモニアは生産国で90%が消費されるため、貿易量で言えば、世界全体の量に匹敵します
アンモニア混焼は、カーボンニュートラルに向けた取り組みとして進められていますが、これだけ大量のアンモニアを新たに製造し、膨大なエネルギーを消費し、CO2を排出するものは、国際的にカーボンニュートラルの取組みとは、認められないでしょう。
アンモニア混焼・専焼を進めるのであれば、併せてアンモニア製造のグリーン化が不可欠です。そこは、日本政府やエネルギー企業も強くコミットする必要があるでしょう。
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