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ひきこもり、ニートなどの「働きづらさ」を抱える人々の活躍は、日本の未来にとって重要。企業は、「未活躍人材」を生かすCSVにより、この課題を自社の競争力の機会とすることができる。

  • takehikomizukami
  • 3月20日
  • 読了時間: 4分

日本財団がWORK! DIVERSITYというプロジェクトを展開している。ひきこもり、ニート、がんサバイバー、刑余者、若年認知症、難病、さまざまな依存症など、生きづらさ、働きづらさを抱える人々への支援が手薄い状況にある中、こうした「働きづらさ」を抱える一人ひとりへの支援を手厚くし継続していこうとするものだ。なお、本プロジェクトは、既存の障がい福祉サービスを利用することができる障がい者以外を対象としている。


2018年の日本財団の調査によると、上記のような生きづらさ、働きづらさのある方々がのべ1,500万人に及ぶ(重複した要因にわたる人などがいるため実数は600万人程度と推定)という。人口減少が進み、労働力不足が顕在化し、すでに1,000兆円を超える財政赤字がある中で少子高齢化とともに社会保障費が増大する日本では、こうした人々に活躍してもらうことは非常に重要だ。


日本財団では、地域でのモデル事業の展開や基本法制定に向けた政策提言などを行っているが、企業も「未活躍人的」を生かすCSVでこの課題に対応することができる。


未活躍人的資源とは、障がい者を含む十分に活躍の機会が得られていない人材のことだが、こうした人材を生かして企業の競争力を高めることができる。IBMなどでは、障がいを持つ研究者を積極的に採用しているが、その独自の感性や視点は、世界で7.5億人~10億人と言われる障がいを持った人のための製品・サービス市場、さらには、世界の3分の1を占めると言われる高齢者や非識字者が情報を得るための技術開発に生かされている。


コカ・コーラ・ブラジルでは、低所得層の若者がスキル不足で仕事を得られないというブラジルの社会問題に対して、そうした若者を教育し、小規模流通業者の戦力として生かす「コレチーボ」というプログラムを展開している。地元NPOと協力して、若者に小売り、事業開発、起業家精神に関する研修を実施し、その後、地元流通業者と組んで、実務に就かせている。若者のスキルを高め、実務経験を積ませることで、仕入れ、プロモーション、商品化、価格設定などの分野で小売業者のパフォーマンスを改善しており、小売チャネルの強化や、対象地域でのブランド認知による売上の増加は、若者のスキルや職業能力を伸ばすための投資を大きく上回っているという。このプログラムは、150以上の地域で展開され、対象者は5万人を超えている。そして、その30%は、当該飲料企業やその小売パートナーに就職し、戦力として活躍している。


SAP、HP、EYなどは、ニューロダイバーシティ(自閉症、注意欠陥・多動症などの神経やそれに由来する個人レベルの特性の多様性)な従業員を雇用し、細微に注意を集中するなどの特性を生かして、品質管理、サイバーセキュリティ、コーディングチェックなどの業務で活躍してもらっている。英政府通信本部では、監視データの分析のために多くのディスレクシア(読み書き障害)の人々を採用している。その他、警備会社が、人のポケットの高さの動きをよく見える車椅子の警備員をスリ警備のために雇っている例などがある。


米ドラッグストアのCVSヘルスでは、生活保護受給者を積極的に採用し、20年間で8万人採用しているが、これら従業員の定着率は、他の雇用者の2倍となっている。CVSは、この取り組みを政府とともに実施し、税額控除も受けている。


こうした「未活躍人的資源」を生かす取り組みは、WORK!DIVERSITYに貢献するとともに、ニューロダイバーシティ人財のような特別な能力の獲得のほか、「企業文化の向上」「顧客との関係強化」「資本と人材へのアクセス拡大」などにより企業の競争力を強化する。


「企業文化の向上」は、課題を抱える人と一緒に働くことで、より協力し合う文化が醸成されるものだ。課題を抱える同僚がいることでお互いに助け合う重要性や、お互いのニーズや能力を知ることの大切さに気づく。また、課題を抱える従業員を雇うことで、心理的安全性が高まる。課題を抱える同僚が仕事で成功するのを見るとほかの従業員も刺激を受け、自分たちもパフォーマンスを高められると気づくという効果もある。


「顧客との関係強化」は、課題を抱える人を雇用することが、顧客に対する価値提案の大きな要素になるものだ。顧客は企業が課題を抱える人を雇用しているとわかるとその企業との心理的つながりが形成されやすくなる。オランダのコーヒーチェーン、ブラウニーズ・アンド・ダウニーズの従業員の多くはダウン症でサービス提供に少し時間がかかるが、「だからこそ同店を訪れるのが好きだ」という顧客がいる。


「資本と人材へのアクセス拡大」は、投資家との関係では拡大するインパクト投資が得られやすくなる。また、企業がこれまで未開拓だった人材を確保できるとともに、特に課題を抱えていない人にとっても魅力的な企業として映る可能性が高くなる。


「未活躍人材」を生かすCSVによるWORK!DIVERSITYへの貢献は、多くの企業で検討する余地があるだろう。

 
 
 

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