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「サステナビリティを戦略の柱とすべき理由」を社内に浸透させる

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)の少し前の論文「持続可能性を戦略の柱とすべきもっともな理由」で、企業がサステナビリティに取り組むべき理由が6つ簡潔にデータとともに整理されています。


①「利害関係者を巻き込んだ競争優位の向上」

ステークホルダーとの対話を通じて経済、社会、環境、規制等の動向に対する感度を高め、信頼関係を構築し事業運営をスムーズにすることは、競争優位につながります。金鉱業界を対象とした研究では、ステークホルダーとの関係性が、用地使用許可、課税、規制環境などに大きく影響する可能性があり、金を株主資本に変える権利を獲得できるかを大きく左右することが分かっています。


②「リスク管理の向上」

気候変動、水資源、労働環境など、事業に影響を及ぼす社会・環境面のリスクは多くあり、かつ影響が長期にわたります。マッキンゼーの調査によれば、サステナビリティに関する懸念により危機に瀕する価値は、EBITDAの70%に及ぶ恐れがあるとされています。


③「イノベーションの促進」

サステナビリティの観点によるイノベーションの事例として、3Mの3P(Pollution Prevention Pays)によるサステナビリティとイノベーションの連動、ナイキのシューズのアッパー部分を一体成型することで製造プロセスの廃棄物を削減できるフライニット、P&Gの冷水でも洗浄力を発揮する洗濯洗剤などが紹介されています。

なお、3Mの3Pは、企業がなるだけ最低限の対応で済ませようと守りの姿勢をとっていた1970年代に、「環境対策は儲かる-Pollution Prevention Pays(PPP)」として、製品の開発段階まで遡って、積極的に環境対策を推進したものです。これにより、3Mは、約20年間で70万トンの汚染物・廃棄物を削減しつつ、8億ドルの経費削減に成功しています。


④「財務パフォーマンスの改善」

企業は競争優位、リスク管理、イノベーション促進に加え、環境対応の効率化によるコスト削減等により、サステナビリティを通じて財務パフォーマンスを向上できます。企業による低炭素投資の平均IRRは27-80%に達するという推計もあります。ダウ・ケミカルが20億ドルの資源効率への投資で98億ドルのコスト削減をした事例など、企業がサステナビリティへの投資で大幅にコスト削減している事例も多くあります。サステナビリティと企業業績に関する2,000にのぼる調査研究では、90%が「優れたESG基準は資本コストの低減につながる」、88%が「優れたESG慣行は業務成果の向上をもたらす」、80%が「株価はサステナビリティの優れた慣行と正の相関関係にある」としています。また、2008年の景気後退時には、サステナビリティに配慮した企業は金融市場において「平均を上回る」パフォーマンスを示し、時価総額の差分は1社当たり平均6億5,000万ドルに達したとのことです。


⑤顧客ロイヤルティの構築

世界6大市場の消費者を対象とした調査では、「自分には、環境と社会にとって好ましい製品を購入する責任がある」という回答が3分の2近くとなっています。ユニリーバのサステナブルなブランドは、それ以外のブランドの2倍で成長しています。社会的責任を果たす企業は、製品価格を2割高めに設定できるという推計もあります。S&Pグローバル100種株価指数を構成する企業のうち、12社について調べたところ、2010年から2013年にかけて、環境に優しい製品やサービスの売上は全体の6倍の伸びを示しているとのことです。


⑥従業員の忠誠や士気

サステナビリティへの取り組みに熱心な企業はそうでない企業に比べ、従業員の士気が55%、忠誠心が38%、それぞれ高いということです。環境基準を導入した企業の生産性は、サステナビリティの取り組みをしていない企業を16%上回っているとのことです。また、社会的責任をよく果たす企業は、人材回転率を25-50%抑えられ、年間の退職率も3-3.5%低減でき、人材補充費用の節減効果は、残留した従業員の年俸の90-200%に相当するそうです。


これらは、サステナビリティの世界では良く言われていることではありますが、上記論文では、データとともに良く整理されています。今後、社内で「何故サステナビリティが必要なのか?」を説明するときには、こうした内容や、ここで紹介されているデータの一次情報、アップデートされた最近のデータなどが役に立つでしょう。


サステナビリティの社内浸透のためには、さらに、気候変動、サーキュラーエコノミー、生物多様性/自然資本、人権といったサステナビリティの主要課題に関するイニチアチブなどの動向、自社事業やバリューチェーンがこうした課題にどう関わっているかを把握し、ファクトとロジックをもとに、自社にとっての具体的な機会やリスクを提示すると、より納得性が高まるでしょう。映像やストーリーなど、さらには、サステナビリティ課題が顕在化している現場を訪問するなどすれば、感情に訴えかけることもできるでしょう。


データを含むファクト、サステナビリティ課題が企業価値にどう影響するかのロジックで、「理」に訴えかけ、映像やストーリーなどにより、「情」に訴えかける。そうすることで、社内に広くサステナビリティに取り組む納得性を高めることができるはずです。


(参考)

「持続可能性を戦略の柱とすべきもっともな理由」テンシー・ウィーラン&カリー・フィンク著(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2019年2月号)


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