「サステナビリティ」は、これからのビジネスパーソンの基本スキルになると思う。
最近は、英語、ファイナンス、IT などがビジネスパーソンの基本スキルとされている。ビジネスパーソンに求められる基本スキルは、社会や市場の変化に対応する。
世界がグローバル化し、企業活動がグローバル化するに伴い、英語でのコミュニケーションが重要になる。金融技術が発達し、金融が経済成長のドライバーとしての重要度を増すに伴い、ファイナンスの知識が重要となる。ITが進化・普及するにともない、ITリテラシーは、ビジネスパーソンの当たり前のスキルとなる。
今後、世界がサステナビリティを目指し、ビジネスもその方向に向かうことが求められる中、サステナビリティは、ビジネスパーソンの基本スキルとなるだろう。
日本政府も、人的資本の強化、リスキリングに注力するとしているが、他国に先んじて、政策的にサステナビリティ人材を育成することを考えてはどうか。「新しい資本主義」というビジョンにもマッチしているだろう。
では、サステナビリティ人材とは、どのような人材か。
ストランドバーグというビジネスとサステナビリティに関するコンサルティング会社が、サステナビリティ・リーダーに求められる3つのスキルと2つの知識の5つのコンピテンシーを提唱している。
その5つとは、「システム思考」、「外部コラボレーション」、「ソーシャル・イノベーション」の3つのスキルと「サステナビリティ・リテラシー」、「アクティブ・バリュー」の2つの知識だ。
なお、コンピテンシーは、ハーバード大学の行動心理学者であるマクレランド教授が、成果を上げる人たちの行動特性を調査して生み出した概念で、仕事に関する人間の能力を因数分解し、成果に影響する因子を取り出し、これをコンピテンシーと呼んだものだ。コンピテンシーを使って人材を分析することで、その仕事に必要なコンピテンシーを十分に持っているか、足りないコンピテンシーは何で、それを教育などでどう開発するか、などが理解できる。
「システム思考(Systems thinking)」とは、「概念的思考」、「統体的思考」とも呼ばれる、様々な事柄の断片でなく全体像を捉え、そこから問題点を発見し、解決していく思考様式だ。サステナビリティやCSVおいては、バリューチェーン、ビジネスエコシステムなどを時間軸も含めて俯瞰的に理解する思考様式は、基本的スキルと言える。
「外部コラボレーション(External collaboration)」について、サステナビリティ推進においては、顧客やサプライヤーだけでなく、競合や他業界とのコラボレーション、政府やNGO/NPOとのコラボレーションなど、外部とのコラボレーションが重要だ。外部とのコラボレーションを積極的に行おうとする行動様式は、必要な資質だろう。
「ソーシャル・イノベーション(Social innovation)」とは、ここでは、様々なサステナビリティ課題をビジネスにとっての成長機会と捉える思考様式、行動様式のことだ。固定観念に囚われず、社会価値と企業価値を両立しようとする、社会起業家的なコンピテンシーと言える。
「サステナビリティ・リテラシー(Sustainability literacy)」とは、社会・環境のトレンドを感度高く捉え、機会やリスクなどビジネスとの関連性を理解するものだ。ビジネスが社会に対して果たすマクロ的役割の変化から、個別の社会・環境に関する動きがどのようにビジネスに影響するかのミクロ的視点まで、社会・環境とビジネスの接点に関する知識は、サステナビリティの基本だ。
「アクティブ・バリュー(Active values)」を持つ人は、自分および他者の感情やモチベーションに敏感だ。また、自らを大きな目的の一部と考え、社会を良くするためにビジネスを活用することにモチベーションを持っている。こうした大きな目的を見据えつつ、他者の感情に理解を示すことで、共有目的を持った人々を社内外の人々の共感を得て巻き込み、サステナビリティ経営を実現することができる。「大きな目的に向けた多様性の受容」という言い方でも良いかも知れない。
これら5つのコンピテンシーは、サステナビリティの推進において重要なのは、間違いない。これまでのビジネスは、基本的に利益や成長のことを考えていれば良かったが、これからは、格差を解消するバランスの取れた成長、環境制約の範囲内での活動など、多面的な視点が必要となる。多面的な視点を統合して考えられるサステナビリティ人材が求められる。
上記で紹介した人材像は、サステナビリティ経営を推進する人材だが、これ以外にも、所謂GXが生み出すビジネスで求められるスキルを持つ人材が必要となる。多様なサステナビリティ人材を如何に獲得・育成できるかが、企業にとっても、国にとっても重要になるだろう。
Comments