top of page

「オランダの誤謬」をどう解決するか? -人新世の「資本論」から-

  • takehikomizukami
  • 2021年1月16日
  • 読了時間: 2分

人新世の「資本論」(斎藤幸平著、集英社新書)に、「オランダの誤謬」というコンセプトに関する記述があります。オランダでは経済的に豊かな生活を享受しているが、一方で大気汚染や水質汚染の程度は比較的低い。しかし、その豊かな生活は、資源採掘、製品生産、ごみ処理など、経済発展に伴い生じる環境負荷が発生する部分を途上国に押し付けているからこそ実現している。この国際的な環境負荷の転嫁を無視して、先進国が経済成長と技術開発によって環境問題を解決したと思い込んでしまうのが。「オランダの誤謬」です。


これは実際にその通りだと思います。先進国では、経済成長と環境負荷がデカップリングしており、経済成長を継続しつつ、2050年カーボンゼロなどを実現し環境問題を解決することは可能、すでにそれを実現できる技術はある、などの楽観的意見もあります。しかし、それは、世界全体、バリューチェーン全体を見通した議論とはなっていません。


グリーンディールへの大々的な投資によるイノベーションの進展に対する期待も大きいですが、本当の脱炭素は、かなり難しいでしょう。EV一つとっても、走行時に化石燃料は使用しないとしても、資源採掘や部材の生産に関わる環境負荷は大きく、電力を再生可能エネルギーで賄うとしても、太陽光パネルや風力設備のバリューチェーンの環境負荷もあります。


人新世の「資本論」では、経済成長を義務付けられる資本主義のもとでは、脱炭素技術やサーキュラーエコノミーが進展して資源効率が高まったとしても、消費が増え続ける限り脱炭素は無理だろうとしています。そして、人類が環境危機を乗り切り、持続可能で公正な社会を実現するための唯一の選択肢は、「脱成長コミュニズム」であるとしています。


私もローカルなコミュニティから変化が始まり、それが広がっていく新しい分散型社会に本質的な解があるのではないかと思っていますが、世界にそれが広がるには相当な時間がかかるでしょう。当面は、資本主義の中で脱炭素が本当に可能なのか、様々なチャレンジがなされるでしょう。世界的な脱炭素が急速に動き始めている現在、5年もすれば資本主義のチャレンジの方向性も見えてくるでしょう。それと並行して、新しい分散型社会構築の動きも徐々に広がると思います。いずれにせよ、世界のリーダーは、「オランダの誤謬」を常に念頭に置き、何が本質的に目指すべき方向性なのかを常に考える必要があります。

 
 
 

最新記事

すべて表示
「CSOが影響力を高めるための4つの方法」:予算や権威の限られるChief Sustainability Officerは、どのように影響力を高められるか?4つの方法を示します。

サステナビリティ部門の予算は、通常、マーケティングや研究開発(R&D)部門の予算のほんの一部に過ぎない。どうすれば目標を達成できるだろうか?TRELLISの記事を紹介します。 主なポイント: ・サステナビリティ担当者のうち、企業戦略に大きな影響力を持っていると回答したのは約4分の1にとどまる。 ・大きな変革は、権限と同じくらい影響力によってもたらされるものであり、当初は権限が限られているCSO(サ

 
 
 
無形資産/非財務資本を評価し融資する制度がスタート。新しい制度が広く活用され、サステナビリティ経営を促進することに期待

先般、「企業価値担保権」制度が始まりました。事業の将来性や技術力といった目に見えない価値を担保に、銀行などの金融機関が企業に融資する制度です。事業の将来性や技術力といった目に見えない価値を担保に、銀行などの金融機関が企業に融資する制度です。 銀行が企業に融資する場合、土地や建物などの有形資産を担保として設定するのが主流ですが、今後は知的財産、ブランド、顧客基盤などの無形資産を含む事業全体を担保にす

 
 
 
レアアースリスクがサーキュラーエコノミーを加速し、イラン戦争がカーボンニュートラルを加速する。地政学とサステナビリティが絡み合う時代には、サステナビリティ経営にもより高度なインテリジェンスが求められる。

サステナビリティ経営においては、“フォーカシング・イベント(Focusing Event)”への感度の高さが重要だ。 フォーカシング・イベントとは、マスコミや市民、政策担当者が急速に社会課題に注目し、対策を進めるきっかけとなる出来事のことで、日米の政権交代なども含む。 サステナビリティを促進することにつながるこれまでのフォーカシング・イベントとしては、以下のようなものがあった。 2018年、鼻にス

 
 
 

コメント


Copyright(c) 2019 Takehiko Mizukami All Rights Reserved.

bottom of page